無料-
出会い-
花-
キャッシング
どうして 走り続けるか なんて
そんな野暮なこと聞く奴にはぶっぱなしてやればいい。
走り続ける理由なんて
俺たちには必要ないんだから。
■■■再生の朝■■■
第五話:「『理由』と『価値』」
「ここを出よう」
俺の一言で、あの日から住み続けていたこの家を出ることになった。
「ZERO」の本部から戻ったその日。
アイツらには悪いけれど 今、闇雲に動いたって
多分 アイツらを「ZERO」から連れ戻すことは出来ないだろう。
相手はTokyoを牛耳る天下の「ZERO」様。
そう易々と二人を連れ出すことなんて出来やしない。
だからとりあえずは、ここを出て落ち着いた場所を探してから作戦を立て、準備をしようと思った。
どうせ、ここにいたってKの使役が俺を連れ戻しに来るだけだろうし。
Kだって、2人に手を出せば俺が二度と本部に近づかないことぐらいわかってるだろうから、しばらく2人は安全だろう。
とにかくアイジをしばらくはゆっくり落ち着いたところで精神的にも休ませる必要がある。
まぁ、今の腐れ果てたこの地に落ち着いた場所なんてあるわけないだろうけど。
「何をしている?」
またか。
ゾロゾロと10人も引き連れて、ご苦労なこった。
俺のシナリオ通りによくもまぁ、ここまで動いてくれるもんだな。
俺たちが荷造りをしているところに、案の定Kの使役はやってきた。
「見てわからないか?ここを出て行くんだよ。お前らに付きまとわれるのは迷惑でね。」
「そんなこと許されると思うのか?A・タケオ」
「許してもらわなくて結構。お前らに止められても俺たちはここを出る。」
「そうか。じゃあ、無理やりにでも止めてみせるさ。」
チャキッ
俺と言葉を交わしていたリーダーとも言える奴が懐から拳銃を取り出すと
周りに居た部下も俺たちに向かって銃口を向ける。
「‥キリト。アイジを連れて窓から外に出てろ。」
「えっ‥あっうん。」
危険な場所に2人は置いておけないと、俺が使役たちとにらみ合いを続ける中、
2人は指示通り窓から外の砂地へと降り立った。
「どうして今2人を撃たなかった?俺は拳銃を持ってないし、撃てたハズだろ?」
「私たちの目的はあくまでも、A・タケオ、アナタだ。あんなゴミに用はない。殺そうと思えばいつでも殺せる。」
「‥ご立派な身分だな。けど、お前らのその空っぽな脳味噌にひとつ忠告しといてやるよ。今、2人を撃たなかった事‥いつか絶対後悔するぞ。」
「ははっ何を言い出すかと思えば‥。アナタもこんなところで暮らしているうちに頭にヤキが回ったようだな。あんなゴミの1匹や2匹に何を後悔すると?」
「いつかわかるさ。」
「その腐った脳味噌でな。」
パンパンパンパンッ パンパンッ パンパンパンッ
軽い破裂音のあとに床に響く、ゴトリッという鈍い音。
人間の頭が床に叩きつけられる。
あっという間に床に直立しているものは、俺とリーダーの2人となった。
奴はあっけに取られた顔で、無残に転がる自分の部下の死体から目が離せないでいる。
当たり前だ。お前らとは拳銃を使う格が違うんだよ。
「どうした?」
俺は事が起きる最後の言葉の後に、すぐさま懐からコルトパイソンを取り出し
奴らが動く前に、リーダー以外全員の額に鉛球を撃ち込んだ。
呆然として動けないリーダーに俺が声をかけると奴はビクっと反応してゆっくりとその顔を俺に向ける。
「何て‥速さだ‥」
「見ての通り」
「‥誰も撃ち込む隙すらなかった‥」
「‥あのさぁ。お前一体誰に向かって銃口向けてるんだ?お前の目の前に居るのは、「ZERO」を指揮して全てを牛耳っていたA・タケオだぞ。」
「ッ!!」
俺の言葉に、何かを悟る。
見くびられたもんだな。
「10人だぞっ!10人同時に撃ち込むより速いというのか!?」
「みての通りだろ?」
「くそっ!!」
そう吐き捨ててリーダーは俺に背を向け逃げようとした。
リーダーともある奴が、怯えて何も出来ないうちに逃げ出すなんて‥
「ZERO」も落ちたもんだ。
「‥もう一つ教えといてやるよ。拳銃抜いたらな、命かけるんだよ」
パンパンッ
「キリト、アイジっ。行こう。」
「えっ?もういいの?」
「ああっ。もう済んだ。」
どこに行くかなんてまだ全然決めてないし、これから決めるつもりもない。
自分たちの本能で歩いて走り続けるだけなんだから。
全ては自分の本能の赴くままに。
全ては 仲間を助けるために。
たとえ誰かに道を遮られて、これ以上先に進めない。
そういう「理由」が出来たとしても
それを壊して「価値」にするのが 俺たち流。
遮るものを切り捨てて、その切り捨てた「理由」を走り続ける「価値」にする。
たったそれだけが、俺たちが走り続ける原動力。
だから俺はいつだって切り捨てる。
俺たちを遮るものは全て、所詮俺たちの「価値」にしかすぎないんだ。
「タケオ〜っ!ここいいんじゃない?!」
新しい落ち着き場所を探し始めて3時間。
以前の家から15キロ程離れたC地区の隅にある街で家を探しようやくキリトが見つけた。
そこは4階建ての新しいとは言えないビルでそこの最上階の一室。
広さはまあまあ。もちろん人など誰も住んでない。
しかし3年経った今も、昨日まで誰かが住んでいたかのように
綺麗にしてあって、家具も全てそろっていた。
「へぇ。綺麗だな。よしっここにしよう。」
新しく落ち着き場所と決めたここを、俺たちは『聖地』と呼んだ。
こんなチンケな場所でも俺たちの『聖地』となることを願ってつけた。
とにかくまず先にアイジをベットに寝かせるため、前の家から持ってきたシーツを引き
そこにアイジを寝かせた。
アイジはベットに横になるとすぐに寝息を立て始め、すっかり寝入ってしまった。
「疲れてたみたいだな、アイジも。キリトも最近寝てないんじゃないの?少しゆっくり休んだ方がいいよ?ここならZEROの奴らもしばらくは気付かないだろうし」
「うん‥そうさせてもらうよ。さんきゅ」
ベットに横になるキリトに毛布をかけてやるとそのまま、キリトも寝入った。
よっぽど疲れてたんだろうな。
ZEROの本部に連れて行ってからちゃんと寝てなかったみたいだし‥
無理もないか。
アイジとキリトが寝静まり、この部屋はしんと静まり返った。
窓に吹き付けてくる砂の音と、二人の寝息しか聞こえないこの部屋は本当に静かだった。
前の家より静かで この静けさの中で ZEROにいたころを思い出した。
静かな部屋に居るときに 鳴り響くキィィィンという耳鳴り。
それ以外何も聞こえない ここに似た静かな部屋にいたころを思い出す。
ZEROに居たころの俺の部屋は、どこぞの監獄のようだった。
壁はコンクリートの打ちっ放しでベットもテレビもソファーも何もない。
ただっ広い部屋にぽつんと置かれた一台の椅子に座って、
唯一外の光が差す小窓からずっと外を眺めていた。
静かで何も聞こえない部屋。
ずっと耳に残るは耳鳴りの音だけ。
そんな時間を過ごしたあの部屋に ここは良く似ていた。
「落ち着く」
そう思ってしまうのは皮肉かも知れないな。
プルルルル────ッ プルルルル────ッ
静かな部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。
二人を起こさないように慌てて携帯を手にする。
非通知。
ピッ
「もしもし。」
『・・・・・・』
「?もしもし」
『・・・・・・』
電話に出て応答しても返答が無い。
「切りますよ?」
『・・タケオ・・・?』
「!?その声は・・」
非通知の表示を見たときにまさかとは思ったけど‥
『・・コータ・・だけど・・』
電話の相手はZEROに捕らえられているコータだった。
嫌な予感は的中するもんだな。
「お前・・なんで俺の携帯に・・」
『俺がかけさせたんだ。』
「・・K。」
コータに電話をかけさせたのは勿論K。
コータに代わってKが応答する。
『そろそろ仲間の声が恋しくなったころじゃないかと思ってな。』
「・・何か他の目的があるんだろ?」
『まぁな。だが電話で話す程簡単なことじゃない。お前にもう一度本部に来てもらおうと思ってな。明日、早朝6時に本部で待っている。』
「そう言われてハイそうですか。って行くと思うか?」
『頭のいいお前ならわかるだろ?時間に来なければ仲間がどうなるかぐらい』
「・・・わかった。明日6時時だな。それまでコータと潤に手出すなよ」
『安心しろ。俺は約束は守る男だ。』
そう言ってKは電話を切った。
明日早朝6時か・・
電話を切ってまた さっきまでの沈黙が戻ってきた。
これからどうするとか、何か作戦があるとか
そんなご立派な準備は何もない。
正直
これからどうするべきなのか何も考えていない。
キリトとアイジを連れて本部に立ち向かえるか。
二人に危険はないのか。
二人を守りきれるか。
本部から捕らえられた二人を連れ出せるのか。
考え始めたらキリのないことばかりで 頭が痛い。
でも今の俺たちに『道』なんてないんだから
とりあえず時間の進むままに歩いて行くしかないんだ。
たとえその『道』が危険であっても。
自分の命と引き換えになるような『道』であっても
仲間のためになら。
そう思って進んでいくしか
俺たちに『道』はないんだ。
■一言■
シリーズ第五話です。
今回はタケオさんの腕前披露と云う事で。タケオさんは凄い拳銃の腕の持ち主なんですよ☆
設定上は。物凄い速さで打ち込むのです。それが理想(笑)
[PR]動画