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俺たちはここに誓う。
可能性がゼロじゃない限り
絶対に諦めないと。
1%にも満たない可能性だけを信じて
またこのTokyoに「朝」が来ることだけを祈って。
俺たちはまたここに集う。
■■■再生の朝■■■
第参話:「抵抗と信念」
「・・・・キ・・リト・・・タケオ・・・くん・・・」
か細い彼の身体を伝って滴り落ちる真っ赤な液。
今にも倒れそうな顔面蒼白の奴は、扉の傍で崩れ落ちるように膝を付いた。
「・・・・アイ・・・ジ・・・?」
「・・どっ・・・どうしてアイジが!?」
息を上げてガタガタと肩を震わせながら何かをぶつぶつと呟くその姿は
紛れもなく2年半前に別れたアイジだった。
だか以前とは全く違う様子に俺もキリトも驚きを隠せないでいた。
「アイジ・・・?どうしたんだ?・・・この血は・・・?」
俺がアイジの前にしゃがみこみ震える手を握る。
こんなにコイツの手冷たかったっけ・・・?
「どうし・・・・ようっ・・・・・・皆がっ・・・・・・」
何かを思い出して震えるだけのアイジ。
何かに怯えているその様子は尋常ではない。
「何があったんだ・・・?潤は・・?コータは・・??」
「タケオくんっ・・・潤・・・くんがっ・・・コータが・・・っ・・・」
潤とコータが。
それ以上は何も言い出そうとしない。
いや・・・
言い出せないのか?
「ZEROに・・・・っ・・・捕まったっ・・・・」
「・・・・!」
「・・・・・・捕まったのか!?・・・それでっ・・・この血は!?」
「わからないっ・・・お金ちゃんと・・・払ったのに!!
潤くんも・・・コータもっ・・・撃たれて連れて行かれちゃったっ・・・どうしてっ!
お金ちゃんと払ったのにっ!!!」
「ZERO」にお金を払ったのに捕まった。
しかも潤とコータだけ。
「じゃあコレは・・・お前の血じゃないんだな?」
「っ・・・・うん・・・コータの・・・・どうしてっ・・・どうしてっ・・・わからないっ!!どうして撃たれたの!?」
アイジは震えて今にもオカシクなりそうな状態だった。
頭を抱えて一人で自分を追い詰めていた。
そんなアイジの肩を抱いてキリトがなだめる。
「とにかくっ・・今は何も考えるなっ・・・落ち着けアイジっ!」
「だって・・・だって!!」
それからアイジが落ち着いたのは1時間を過ぎてからだった。
落ち着いた途端に気が抜けたように床に倒れこんだアイジをベットへ運んだ。
「何で捕まったんだ・・・?金・・・払ったんだろ?」
「・・・・・・」
アイジは確かにそういった。
「ちゃんとお金を払った」と。
金を払ったのに「ZERO」が二人を連れて行った理由。
それは。
「・・・・まさか・・・」
「?・・・・タケオ・・?お前何か知ってるのか?」
「・・・・え・・?あぁ・・・まぁちょっとな。」
いやな予感がする。
金を支払えば拘束はされない。
その「ZERO」の法則をくつがえすこの行動。
金を払った人間にも銃口を向けて、尚更アイジ以外の二人を捕まえた理由。
俺の予感が間違ってなければ・・・
「・・・・・・キリト。明日アイジを連れて「ZERO」の本部に行こう。」
次の日になって、アイジを連れて行こうと起こしかけたが
昨日の疲れからかアイジは中々起きようとしなかった。
「ZERO」の本部に行く。と俺がいうとアイジは首を横に振った。
「いやだっ・・・俺・・絶対行かないっ・・・・」
あまりに嫌がるので仕方なく家の留守を頼み俺とキリトで本部へと向かった。
多分アイジのことだから、「ZERO」に関わることを極力避けたいのだろう。
無理もない。
自分の目の前で訳もわからないままに潤とコータが撃たれ、連れ浚われたのだから・・・。
逃げたくなる気持ちもよく分かる。
「ZERO」の本部はA地区から北に少し行ったところにあった。
莫大な資金をかけて立てられた本部の建物の裏には
広大な敷地に建てられた巨大なビル。
これが政府の本拠地とも言えるところだった。
束縛された人々たちはこの本部に連れてこられ、その後元F地区といわれていた場所で
強制的に働かされる。
F地区は元々俺たちの住むD地区と同様普通の住宅地だったのだが
政府と「ZERO」の手により現在は人々を束縛する地として変えられてしまった。
俺たちはその場を「匣(ハコ)」と呼んでいた。
俺たちが今回向かったのは本部。
本部正面には大きな門がある。
もちろん本部にはそれなりの警備をひいてあるため、門番もいる。
「何者だ。」
「何の用でここへきた。」
門に近付こうとする俺たちに躊躇いなく銃口を向ける門番の二人。
「許可のないものは中にいれることは出来ない。」
「・・・中にいるお偉いさんに伝えな。”二人を捕まえたのはプロジェクトのためだろ?”ってな。」
俺の言葉を聞いた門番二人は目を丸くした。
「・・・・・お前・・・何を知ってるんだ・・・」
「さぁな。とにかくそう伝えな。」
それを聞いた一人が慌てて中に無線機で連絡を取った。
しばらくして・・・
「・・・・許可がおりた。このまままっすぐ中へ進め。」
そういって門をあけた。
門を通り着々と中へ進む俺にキリトは不安そうにぼそぼそと言葉にする。
「なぁ・・お前・・「ZERO」と何か関係・・・あるのか・・?」
「ん?キリトが不安になるようなことは何もしてないよ。」
「・・あ・・・なら・・・いいんだけど・・・」
きゅっと俺の手を握るキリトの頬にキスを落とす。
不安なのは俺も同じだけど、キリトはきっともっと不安なんだろうな。
色々と・・・・。
門を過ぎて暫く歩くと本部建物の前にきた。
その正面玄関の前に一人の男が立っていた。
「・・・まさかお前からここへ来るとは思わなかったよ。タケオ。」
「久しぶりだな。J。」
俺が「J」と呼ぶその男は黒のスーツに身をまとっていた。
「一体何のようだ?一度ここを離れたお前が戻ってくるなんて。」
「戻ってきたわけじゃないさ。仲間を連れ戻しにきただけだ。」
「・・・仲間・・?・・・・・ああ。あの二人のことか?」
「あぁ。」
「・・・・・・・・どうせ俺と話をつけるためにきたわけじゃないんだろう?最上階へ上がれ。Kがお待ちだ。」
Jはそういうと正面玄関を開けた。
このJという男は政府と「ZERO」の組織を牛耳る「K」という男の秘書の一人。
もちろんコイツらにも本名はあるのだが、ここでは本名を捨てコードネームで
呼び合うのが支流だ。
フロアから最上階へ直通しているエレベーターをあがり最上階へつくと
今度は黒のシンプルなパーティードレスに身をまとった一人の美女が待っていた。
「・・・・タケオ・・・・お久しぶりね。」
「・・・Q.リダ。元気そうで何より。」
彼女のコードネームは「Q.(クイーン).リダ。」
彼女も「K」の秘書の一人であり、側近の一人。
「Kは?」
「中にいらっしゃるわ。案内します。」
Q.リダに案内されKのいる部屋へと案内された。
「・・・K。タケオです。」
「約1年半ぶりか・・・?A.タケオ。」
「・・・・・・Aの名前は捨てたんだ。キリトが勘違いするようなこと言うなよ。」
「・・・・タケオ・・・・?」
「・・・大丈夫だよ。キリト」
部屋に入り大きなソファーに腰をおろす。
Kは俺とキリトをしげしげと見下ろしゆっくり向かい側へ腰をおろした。
「・・キリト・・・といったかな?」
「え・・・あ・・・はい。」
「・・キミは・・・タケオの何だ?」
「え・・・・・?」
Kは険しい表情でキリトにそう問いただす。
一方のキリトは状況を把握できていない状態できゅっと俺身体に隠れるように俯いてしまった。
「・・・キリトは関係ないだろ?何がいいたい。」
「・・・・・・私は・・・お前がここを出て行った理由を彼と・・・昨日捕まえた二人・・・
あと「取り逃がした」もう一人のせいだと思っている。」
「・・・それは違うな。俺は自分の意思でここを出た。キリトや潤・・・コータやアイジのせいじゃない。」
「・・・・?・・・何の・・話だ・・??」
「・・・いや違うな。お前はこいつら4人のせいで・・・いや4人のためにここを出たんだ。
お前も自分で分かっているだろう?例のプロジェクトはお前なしでは進まない。
このプロジェクトにはお前の力が必要なんだ。」
「残念だけど、俺はもうここに戻ってくるつもりはない。」
「なぁっ・・・タケオ・・・一体何の話して・・・・」
「・・・?お前・・・話してないのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
俺とKが話を進める中、状況をつかめないキリトが不安そうに口を挟む。
そのキリトの状況にKは「そうか」と口のはたに笑みを浮かべた。
「・・・知らないのなら教えてやろう。お前たちが仲間と思っていたこの男は・・・
1年半前までこの「ZERO」の最高司令官を務めていた。・・・この私より上の地位にいた男、
『A.タケオ』なんだ。」
「・・・っ・・・!タケオっ・・・そう・・・なのか・・・?」
Kの言葉に驚愕の表情で俺をみつめるキリト。
「・・・・ああ。」
「っ・・・」
そう。
俺は1年半前までこの「ZERO」という機関で最高司令官を務めていた。
部下たちに人々からお金の収集を命じた事もあった。
そして、極秘に勧められていたプロジェクトを仕切り、進行役も務めた。
でも俺は
その間もキリトと共にあの家で生活していて
このまま「ZERO」にいることに嫌気がさした。
潤やコータやアイジにまた会いたいと思った。
だから
最高司令官の地位と「A.タケオ」の名を捨てて今の生活に戻ったんだ。
「・・・・タケオが居なくなった「ZERO」のプロジェクト進行チームでは一向に
作業が進まない。やはりお前の力がなくては駄目だ。
お前にはもう一度ここへ戻ってきてもらう。」
「・・・・・・それで・・・俺の仲間の潤やコータを捕まえたんだな?」
「ああ。あの二人を捕まえればお前は必ず動くだろうと思っていたからな。現にお前はこうしてここにきた。」
「・・・馬鹿馬鹿しい。俺は二度とここへ戻ってくるつもりはない。帰ろうキリト。」
俺はキリトの手を引いて部屋から出るドアへと向かった。
と・・・・
「・・・・アナタを帰すわけにはいきません。」
ちゃきっ。
ドアに手を伸ばした俺のこめかみにQ.リダが銃口を向ける。
「あの二人を取れ戻しにきたんじゃないのか?・・・お前がここに戻ってくれば
いつでもあの二人を解放してやる。・・・だが。お前が無理にでも帰ろうと
するならば、あの二人だけでなくキリトも・・・二度とここから出られないと思え。」
「・・・・俺を脅迫するなんて・・・いい度胸しているな。K・・」
「・・・!」
ジャキッ
俺はそういうと懐から2丁のコルトパイソンを取り出しQ.リダ、Kへと向けた。
「・・・俺の銃の腕は・・・お前たちが一番良く知ってるんだろう?
だったら・・・Q.リダが俺のこめかみに打ち込むとの俺がお前たち二人に
打ち込むのと・・・どっちが早いかぐらい・・・わかるよなぁ?」
「・・・っ!!!」
「・・・・・もう一度日を改める。それまであの二人には手を出すな。」
「ZERO」に居た頃に嫌というほど思い知らされたことがあった。
それは誰も信用できないと言うこと。
周りにいるやつらは皆、自分の出世を描いていた。
誰かがミスをすればそれを追い立てて裏切ることなんてざらにあった。
周りは誰も信用できない。
そんな場所にこれ以上いることが苦痛だった。
プロジェクトとか・・・そんなこと俺にとってはどうでもいい。
金も権力も地位も・・・
俺には必要なかった。
ただ・・・・
安らげる場所と
信用できる仲間がいれば 他には何もいらなかった。
何もかも腐ってしまったこの地で
信用できるものが欲しかっただけなんだ。
■一言■
再生の朝三話目です。
やっとこさ「ZERO」の内部の話になってきました。
タケオさんがどういう経路で「ZERO」に入り、出て行ったかはこれから!
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