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言葉で言ってくれなきゃわからないよ。
■■■ハレーション■■■
「よし!!今日は俺からだ!!」
「どしたの急に」
人の掃けた夜の楽屋。
すでに撮りも終わって楽屋には、トイレに行ったタケオを待っている俺と
それに付き合ってくれている(付き合わせた)潤だけ。
コータとアイジは2人で珍しくメシを食いに行くとかで。
いつもはタケオから「俺んち来る?」とか声かけてくれるんだけど
今日は俺から声をかけるんだ!
そう決めた。今ね。
余りに張り切りすぎて思わず声に出しイスから立ち上がった俺に
潤は疑問符を浮かべる。
「何、立ち上がってるんです?」
「トイレ!」
立ち上がった理由を聞かれ、意気込みすぎて・・・とは答えられず
トイレと言い訳をして楽屋を出た。
トイレに行けば多分タケオとかち合わすだろうし・・・
そのまま誘うか。
と考えていた俺の視界にタケオの姿が映る。
あーいたいた!
そのまま声を掛けかけたが、ふとその声を押しとどまらせた。
「・・・?誰だアレ?」
数メートル先の廊下に見つけたタケオは誰だか知らない女と親しげに話をしていた。
何やら綺麗に包装されたモノを受け取りながら。
悪いこととは思いながらも、その光景に思わず聞き耳を立てる。
2人に見つからないように壁に身を隠しながら。
「あの・・・これ食べてください。タケオさんの為に一生懸命作ったんです」
「えっ?俺のために?」
何だ何だよ!
図々しい女だなっ。俺のタケオだぞ!?俺の!!勝手にプレゼントなんか渡しやがって(怒)
一言言ってやるか!
そう思って、壁から身を出そうとした俺の足はその場にまたもやとどまった。
「ずっと・・・タケオさんのこと好きだったんです。」
え?
「タケオさんに好きな方がいるのは・・・知っています。でも・・・タケオさん以外考えられなくて・・・私じゃ・・・駄目ですか?」
何言ってんだ、あの女。
タケオがそんなのOKするわけないだろ?
大体タケオの好きな相手は俺だっつーの(自信満々)
タケオがウワキなんかするか!!
俺はそう信じていたから、次の言葉の予想なんてしてなかった。
タケオの口からそんな言葉が出てくるなんて
「有難う。」
え
「俺でよければ」
ちょっと待てよ
「お付き合い・・・」
次の言葉が怖くて、思わずその場から走り去った。
来た道を走り、楽屋にかけ入る。
バタンっっ!!!!
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「息切らせてどーしたの??」
「・・・・えっ・・・あっいや・・何でもない・・・俺先帰るわ!」
跳ね上がる心臓のドキドキを押さえて、切れた息を整える間も無く
鞄と上着を掴んで楽屋を走り出た。
潤には悪いけど
今はそんなこと考えてる余裕はない。
車をスピード違反ギリギリまで飛ばして家路に着く。
慌しくドアを開けて家に駆け込み、そのままベッドになだれ込んだ。
「・・・・・・・どういうことだよ・・・」
確かにアイツは「有難う」と言った。
「俺でよければ」と。
そう話が流れたなら、その後の言葉は聞かなくたって容易に理解できる。
どういうことなのかさっぱり。
俺はアイツのなんなんだ。
好きだって言ったアイツの言葉はウソだったのか?
ピンポーンっっ
しばらく一人で先ほどのことを整理していると家のチャイムが鳴った。
こんな時間に家に来るのは、タケオしか居ない。
出てやるもんか。
大体まださっきのこと整理出来てないのに逢いたくねぇよ。
「キリト?」
「えっ!?たっタケオ!?」
後ろに気配を感じたかと思えば、名前を呼ばれて慌てて振り返る。
そこにはきょとんと俺を見ているタケオの姿が。
あ!!俺鍵・・・・鍵掛け忘れたんだ・・・
「何だいるんじゃないー。鳴らしても出ないからいないのかと思った」
安堵の息を漏らして、電気も付いていない部屋に入りベッドに腰を下ろす。
何だよ・・・どうせ心配なんてしてないくせに。
「・・・何しに来たんだよ」
「何って・・・楽屋戻ったらキリト居ないし、潤に聞いたら慌てて帰ったって言うし・・・」
「・・・誰のせいだと思ってんだよ」
「??」
「とにかく帰れよ。今日は疲れてんだ」
全くさっきの素振りを見せない。
俺には言えないことなのかよ。何も知らないと思って・・・・
そう思うと余計に腹が立って、布団にもぐりこんだ。
「どうしたの?ご機嫌斜め?」
「うっさいっ。いいから帰れよ」
「じゃあコレだけ」
自分の上にタケオの重みがかかる。
と同時に頬にキス。
いつもならここで、タケオの懐かしい匂いがするはずなのに
漂ってきた香りは、甘ったるい女物の香水の匂い。
途端に俺はタケオを突き放した。
「・・・?キリト?どうしたの本当」
「帰れ!!出て行けよ!!」
「・・・・・・わかった。帰るよ。ちゃんと戸締りするんだよ?」
ばたんっ。
重く冷たい寝室のドアが閉まる音。
鼻に付く甘ったるくて嫌な匂い。
何でタケオから女物の香水の匂いなんて・・・
まさかあの女と?
そう思ったら腹が立って、それと同時に辛くて思わず突き放した。
全部ウソだったのかよ。
好きだって言ってくれたことも、ずっと傍にいてくれるって言ったことも。
信じてたのに。
いくら落ち込んでいても、たとえ泣きはらして目がパンパンに腫れてたって
朝はやってくる。
それと同時に仕事の時間もやってきて、休むわけにも行かず
楽屋に向かった。
あの女がタケオに告白した場所を通って、昨日と同じ楽屋に入る。
中にはスタッフ数名と、潤とタケオ。
俺ってつくづくタイミングが悪い。
「キリト、おはよう」
そう思っていると案の定、タケオから声を掛けられた。
「・・・おはよう」
「夜ちゃんと寝れた?」
「・・・そこそこ」
「あれ・・?目・・・腫れてる?」
「・・・いっ」
そういったタケオに腫れて赤くなった目を触られ、軽い痛みが走る。
「泣き寝入りでもした?」
やっぱり・・
絶対バレそうな気がした。サングラスでも掛けてくるべきだったな。
「どうでもいいだろっほっとけよ」
目を優しく撫でる手を振り解いて鞄から本を取り出す。
大体、女とウワキしてるくせに・・・優しくすんなよな。
「どうしたのキリト・・・。俺なんかした??」
自分の胸に聞いてみろよ。しらばっくれて・・・・
「キリト?言ってくれなきゃわからないよ」
「うっさいなぁ。ほっとけって言ってんだろ!」
言ってくれなきゃって言葉、そっくりそのままお返しするよ。
自分だって隠してるくせに
そう思うとイライラして、つい声を張り上げてしまう。
タケオは一瞬ひるんだ顔を見せたが、「わかった」と言うとスタッフのところへ行ってしまった。
冗談じゃない。
何で俺がそんな顔されなきゃいけないんだよ。
「どうしようもない」みたいな、そんな顔。悪いのはお前だろ?
「どーしたの?ケンカ?」
いつの間にかテーブルを挟んだ真向かいには潤が居た。
「・・・・何でもねぇよ」
「何でもなくない。あんなに声張り上げて・・・あーたらしくもない。ケンカでもしたの?」
イライラしてる時にコイツと話をするのはイヤだ。
変に深いところまで読んで来る。
その読みがまた、外してなくて痛いところをついてくるもんだから・・・
「別に・・・そんなんじゃねぇよ・・」
「・・・・話聞いたげようか?」
結局のところ、誰かに頼らないと生きていけないんだと自覚してしまうときがある。
そんな時は対外、コイツと一緒に居るとき。
タケオは頼らせてくれる時もあるし、包んでくれる時もある。
それは全く違ったところで俺を支えてくれてるのはコイツかもしれない。
潤に話を聞いてもらおうと、慌しい楽屋を抜けて給湯室へ来た。
ここならしばらく誰も来ないだろうと踏んで。
「へぇ・・・そんなことがあったんだ?」
「うん」
昨日見た光景、タケオの返事、家でのこと、今さっきのこと。
自分が見たこと全部を潤に話した。
「タケオくんがウワキ・・・ねぇ」
「うん」
「・・・・ウワキするようには見えないけど」
「でも!でもアイツは確かに有難うって言って、俺でもよければって!!アイツから女物の香水の匂いだって・・・」
「うーん・・・」
疑えば疑うほど、嫌なところが見えてくる。
好きだと言ってくれたのは、俺を信用させるためのカモフラージュじゃなかったのか。
同情で俺と寝てたんじゃないのか。
本当は、俺の事なんてどうでもよかったんじゃないのか・・・
そんなことばかり頭に浮かんで、息苦しくなる。
「顔色悪いよキリト?」
「・・・あ・・・?・・・あぁ・・・平気・・」
そういや朝体ダルかったんだっけ・・・。
自分の体のことなんて考えてる余裕なかった。
「・・・・ねぇキリト。タケオくんのこと好き?」
「え・・?そりゃ・・・好きだけどさ・・・・」
「好きなんだ?二股かけられてるかも知れないのに?」
本当痛いところをついてくる。
二股をかけられているどころか、もしかしたら俺が捨てられる方なのかも知れない。
そう思ってても、どこかでタケオが好きだという気持ちが残っている。
どこかでまだ信じてるところがあるんだ。
「・・・好き・・・だよ」
「・・・・・タケオくんなんてやめて、俺にしない?」
「え?」
「俺、ずっと傍にいてあげるから。好きだよあーたのこと」
そう耳に届いたかと思えば、突然体を引き寄せられ
狭い給湯室でぎゅうっと抱きしめられる。
拒みたいという気持ちが確かにあるはずなのに
手は拒むどころか、潤の服を強く握り締めていた。
「・・・泣いてたんでしょ?夜・・」
「っ・・・・」
「・・・俺なら絶対泣かせたりしないからさ・・・」
ヤバイ
このまま流されそうで・・・
潤の一言一言が、ストレートに体に響いてくる。
拒みきれない手と、感情と。
タケオに捨てられるぐらいなら
この人に甘えてしまおうかという甘い気持ちが俺を揺さぶって
気持ちを混乱させる。
「じゅ・・・」
「・・・・俺にしときなよ・・・・愛してるから・・・」
何とか声に出した言葉をその唇でさえぎられた。
優しくてでもどこか冷たい唇。
タケオとは全然違う
流れ込んでくるその気持ちも違ってて、正直キスだけでここまで違うものかと思った。
腰に回された暖かい手と、この人の優しさが酷く染みて
このままこの人に気持ちを預けてしまおうと思った。
タケオに「別れてくれ」といわれる前に
がちゃっっ
2人だけの空間に、外の空気が突然割って入る。
給湯室の扉が開いて、そこから顔を覗かせた人物に体が凍てついた。
「・・・・・・キリト・・・?」
一番見られたくない人に、こういう都合の悪い場面は見られるもの。
給湯室に割って入ったその空気は、タケオの冷たく重たいものだった。
言葉にしなくてもわかる。怒ってることぐらい。
思わず潤から離れる俺を、タケオは見逃さなかった。
パァァァンッッッ!!!
途端に左の頬に激しい痛みが走る。
あまりの衝撃に体がよろめいて、コンロに手をついて。
ヒリヒリ痛みの走る頬からビシビシ伝わってくる、タケオの怒り。
何で俺がぶたれるんだよ・・・
「お前っ・・何考えてんだよ!!」
「タケオくん!!」
信じられないといった目で俺の体を掴んでつっかかるタケオを潤がとめにはいった。
「何で・・・何で俺がぶたれるんだよ!何で・・・」
「何でって・・・自分のしてたことわかってんのか!?」
「わかってるよ!潤とキスしてただけのことだろ!?何がいけないんだ!!」
どうして俺だけぶられなきゃいけないんだよ。
お前だってしてることだろ?あの女と、昨日の夜だって逢ってたんじゃねぇのかよ。
「してただけのことって・・・何言ってんだよ!キスしてはいそうですかって言うとでも思ってるのか!?」
「俺が誰とキスしようと勝手だろ!?どうせ・・・」
どうせ俺のことなんかどうでもいいくせに」
パァァァァァンッッ!!!
また左頬をぶたれた。
今度は最初の一発より痛い。
思いっきり力がこもってるのがわかる。
「・・・・・本気で言ってるのか、それ」
「・・・ああ本気だよ!!お前なんかもうウンザリだ!!」
精一杯の返答を返して、二人を残し給湯室を走り出た。
どうして俺だけぶたれなきゃいけないんだ・・・
お前だってしてたことなのに。
もういやだ。
その日一日は本当に長かった。
タケオはこっちを見ないようにして、仕事をこなし自分の仕事が終わったらさっさと帰ってしまった。
潤は俺の横にずっと居てくれて、声をかけてくれていた。
仕事が済んで、家に帰ろうかと思ったけど
あの家に帰ってもまた一人。そう思うとあまりに辛くて
「うちに来る?」と誘ってくれた潤に甘えてしまった。
「適当に座って」
そう言ってリビングに招き入れてくれる潤だったけど、ソファーに座るより
そのままもう眠ってしまいたかったから、寝室へ入り勝手にベッドに横になった。
抱きしめられた時に鼻に付いた、潤の匂いが溢れるベッド。
「寝るの?」
「・・・ん。しんどいから・・・」
スプリングのきしむ音がして、潤が布団に入ってきて
ぬくい足が俺の脚に絡む。
「冷たい足・・・」
ベッドを軽くきしませながら、潤は俺に体を寄せて抱きしめてくれた。
あんなに真剣に怒ったタケオを見たのは初めてで
自分で潤の腕を選んだことに今更後悔していた。
それでももう後戻りは出来ないと、気持ちのどこかで確信してか
潤の背中に回した腕には躊躇いの色はなかった。
このまま終わってしまうんだろうか。
そう考えて、目頭が熱くなった時
寝室のドアが勢い良く開いた。
ガチャっっ!!
「キリト・・・はぁっ・・はぁっ・・・」
部屋に駆け込んできたのは、息を切らせて肩で大きく呼吸するタケオ。
「たっ・・・タケオ!?どうして・・ここに」
どうしてタケオがここに・・。
状況の全くつかめないでいる俺。
思わず潤の背中に回した腕を引っ込める。
と同時に、潤も俺から体を離しベッドから立ち上がった。
「遅いよタケオくん。もうこないかと思った」
え?
「バカ・・言うなよ・・・ほっとくわけないだろ・・?」
どういう・・ことだよ。
「タケオ・・潤・・・?どういう・・・」
「キリトっ」
2人の会話に言葉も挟めず、その場でうろたえる俺は、グイっと布団から出されたかと思うと
思いっきりその腕を引き寄せられそのまま抱きしめられた。
今度は潤ではなくて、タケオに。
「ちょっ・・・タケオっ!」
「御免な・・ぶったりして」
「どっどうしてっ・・」
「キリトっ。タケオくんは俺が呼んだの。キリトがウワキしてるって誤解してるから来てやってって」
誤解・・・?
「あの女のことだろ?キリトが俺に腹立ててたの・・・」
「っ・・・そう・・・だよ」
そうだよ。誤解も何もお前はあのとき確かに言ったんだ。
「俺でよければ」って。
「あの人にはちゃんと断ったんだよ?『有難う。俺でよければ、お付き合いしてあげられればいいんですけど
俺には好きな人がいるからそれは出来ません』って」
「キリトが早とちりしたんだよ。あのときの会話を」
早とちり?俺が?
ちゃんと断ったって・・・そう・・・だったのか
なんだ・・・・
「バカだな、キリト。俺いつも言ってたでしょ?キリトが好きだって。俺はキリトが居てくれるだけで十分幸せなんだから」
「・・・・っ・・・紛らわしいことっ・・言ってんじゃねぇよ!バカっ・・・」
あー・・・
タケオにそういってもらえて、誤解だって気付いたら安心して
ヤバイ・・涙出そう・・。
俺は抱きついたタケオの胸に顔を埋めた。
泣きそう。
「・・・いい加減にしてよねー。2人の痴話喧嘩にいちいち付き合わされる俺はメーワクっ」
そっそうだ!潤!!
「じゅっ・・潤御免っ・・俺っ」
「あーはいはい。もう言わなくていいって。あーたがぶたれたのは俺のせいでもあるんだから。
俺のことは気にしないで、2人で愛を築きなおしてくださいっ。今日はこの部屋貸してあげるからさっ」
潤はそれだけ言い残し、寝室を出て行った。
御免潤。
でも、タケオと喧嘩したとき、お前が居てくれて本当良かったと思った。
一人じゃやりきれなかっただろうから・・・
それに・・・本気でお前のこと好きになりそうだったよ。
「キリト。ほっぺた平気・・・?」
「えっあっうん。平気」
「そっか・・・御免な、誤解させて・・・」
「・・・っそうだ!お前が悪いっ」
心配そうに俺を見るタケオと目を合わせるのは何だか恥ずかしくて目をそらして
ベッドにもぐりこんだ。
タケオがくすくす笑う声が聞こえたけど、気にしない。
はぁ・・・俺の早とちりなんてそんな格好悪いこと、誰にも言えない。
でも・・・
誤解でよかった。
「はぁ・・・つくづく俺ってお人よし・・あーたの事本当は手放したくなかったよ」
そんな言葉が、リビングから漏れていたなんて、俺は全く知る由もなかった。
本当
誤解でよかった。
■一言■
お兄ちゃんの誤解シリーズ。一話目はお兄ちゃん視点でお届けしました。(何)
実はまだこの話には続きがありまして…
続きは潤君視点。お兄ちゃんとタケオさんの関係を潤君がどう思ってるのかという。
実は三話まであったりします(笑)
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