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そういえば・・・・
初めてキリトに出会った時も
こんな雨だったな
■■■再生の朝■■■
番外編(プロローグ):「Charismatic」
初めてキリトに出会ったのは
まだ朝があった頃。
どしゃぶりの雨の中、雑居ビルの前で
捨て猫みたいにうずくまっているキリトを俺が見つけたときだった。
何もいわずに、ただじぃっと俺の目を見て雨に打たれるキリトは
本当の捨て猫みたいで
その目から視線を離せなかった。
「何もないけど・・・とにかくその辺に座って?」
あのまま放っておくわけにもいかず、手を取り自宅へと連れ込んだ。
終始無言で、何も言わずいわれるままにソファーへと腰をおろす。
素性も知れない俺のあとを着いてきたキリトは
不安そうな様子もなく、濡れた体もそのまま。
「これで体とか拭いて?風邪ひくから」
こくっと小さく頷き、タオルを受け取って顔を軽く拭いた。
そのとき俺は、喋れないのか?
とまで思ったぐらいで、本当に何も話さない。
声を出さないとか、そういうのもあったけど気持ちの中での声が全く聞こえてこない。
まるで死んだ人間を見ているようだった。
あとは冷え切った体を温めるために、即席だけどココアを入れた。
手渡し、受け取ったものの一口すすっただけでテーブルへとカップを下ろしてしまった。
ふと、キリトの腕を見ると両手首にはなにやらアザがついていた。
螺旋状にぐるりと手首を一周も二週もしているそのアザは
酷く腫れ上がり手首の形を軽く変形させていた。
「その手・・・」
ぽろりと口に出した俺の言葉に、ぴくっと体をこわばらせ
即座に手首を後ろに隠してしまったキリト。
「どうしたんだ?その手首・・・酷く腫れ上がってる」
俺が追求しても、うつむいて首を横に振るだけ。
聞くな。
と言いたげで、俺もそこから先は追及できなかった。
せめて、治療だけもと持ちかけたがそれも拒否されてしまう。
「・・・しゃべれる・・・よな?せめて名前ぐらい教えてくれよ。名前分からないんじゃ不便だろ?」
「・・・・・キリト・・」
「キリト?俺は、タケオ。どうしてあんなとこに居たんだ?」
ようやく口を開いたキリトは消えそうな声でボソボソと返答する。
「わからない・・・気がついたらあそこにいた・・・」
「・・・そっか・・。どこから来た?」
「・・・・・暗いところ・・・・」
「家族は?」
「弟が・・・・一人。」
「・・・・・うんうん・・。弟はどこにいるの?」
質問を重ねるにつれて、重い口を少しずつだが開き始める。
弟が居ると言ったキリトは、どこにいるんだ?という質問に上着のポケットから
雨に濡れてくしゃくしゃになった、紙切れを差し出した。
雨で滲んではいるものの、何とか読み取れるそれは電話番号だった。
「これ弟の?かけても平気?」
俺が聞くとこくりとうなづくキリト。
それを確認して受話器を取る。番号からみて携帯電話のようだ。
プルルルルー
プルルルルー
プルっっガチャッ
『もしもし?』
3コール待つ間も無く、電話に出た相手の声はキリトに良く似た声だった。
「もしもし、えーっと・・・キリトくんの弟さん?」
『お兄ぃ!?お兄ぃは俺の兄貴ですけど!!』
「あっえっとね、なんて言やいいかな・・・今俺の家でお兄さんを保護してるんだけど・・・
迎えに来れる?」
『お兄ぃを保護!?本当ですか!?いきます!今すぐにいきます!』
キリトの名前を聞いて興奮した様子の相手は、
すぐに来るといいとりあえず住所と電話番号を教えて電話を切った。
「弟さんここに来るって」
「ありがと・・・」
「・・・・・体大丈夫?寒くない?」
相変わらず口を閉じるとまたうつむいてしまうキリトは、俺の問いかけにまたもうなづく。
「あの・・・」
「ん?」
「・・・どうして・・・俺なんかをここに・・・?あのまま放っておいたら・・・死んでいたかもしれない俺を・・」
やっとこさ顔をあげたと思ったら
またさっきの目で俺を見る。
「どうしてって・・・俺もよくわからないけど・・・何か捨て猫みたいだったから」
笑い混じりにそういった俺に
キリトは消えそうな声でこうつぶやいた。
「あのまま・・・見殺しにしてくれればよかったのに・・・・」
「え?」
我が耳を疑うような言葉にはっとしたのもつかの間
キリトはタオルをソファーに置いて立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「おっおい!ちょっと待て!!」
「離してくれっ・・・!放っておいてくれよ!」
「んなわけいくか!!外はどしゃぶりなんだぞ!?風邪ひくだろうが!」
引きとめようとする俺を振り切るようにして部屋を飛び出そうとするキリト。
行くところなんてないくせに
またあそこに戻るつもりかよ
戻ってまた捨て猫みたいに あんな眼差しで・・・
「どうしてあのまま放っておいてくれなかったんだよ!どうして・・・!!」
「じゃあどうしてついてきたんだ!!本当に死にたいならついてきたりしなかっただろ!?」
声を上げてそういった俺の言葉で
キリトは我に返り、床に流れるように座り込んだ。
「もう・・・帰りたくない・・・あんなところになんか・・・」
それが始めての出会いであり、初めてキリトの涙を見た日。
それから数時間して迎えに来た弟に、事情を説明しとりあえず今日のところは
引き取って貰うことになった。
のちのちに日を重ねるうちに俺が自分のことを話すことでキリトも自分のことを話すようになり
そのときに聞いた内容は今でも忘れない。
半年もの間、キリトは暗い地下室に閉じ込められていた。というのだ。
突然、拉致されどこかもわからない場所にずっと一人で監禁されていた。
手足は重く固い鎖で壁に繋がれ満足に食事すら与えられなかった。
一体なんの理由で自分が監禁されていたのかはわからない。
ただ、言えるのは自分が無力だということ。
何も出来なかった。抵抗することも出来ず、薬で眠らされ気がついたら独房にいた。
そこから始まった地獄の毎日。
満足に食事も与えられず、自由に動くことも出来ない。
そんな毎日が半年も・・・
そんな毎日に気が狂いそうで、錆びてきた手首の鎖を交換しに来た監視官の隙を見て
やっとの思いで逃げ出してきたとか。
必死のあまり、どうやって自分でも振り切ってきたのかは覚えていないそうだ。
それであんなところに一人でいたのか。
キリトと出会って1週間ほどしたころ、俺の家に黒のスーツに身をまとった大男たちがやってきた。
ドアスコープ越しにみて一目でキリトを隔離していた連中だと気付いた。
そしてキリトを再び連れ戻そうとしていることも。
家が2階でよかった。と、俺はドアを開ける前にキリトを窓から外へと逃げ出させた。
2階から飛び降りたキリトが俺の車に乗るのを確認して、ドアを開ける。
何も言わずにズカズカと家に押し入った連中はざっと数えて10人弱。
いずれの手にも拳銃が握られていた。
「キリトはどこだ?」
「キリト?誰のことだ?」
「とぼけるな!!お前がキリトを連れ込んでいることは知っているんだぞ!」
短気な連中は、知らないととぼける俺の胸倉を掴み上げた。
「知らないって言ってるだろ?手を離せよ」
「・・・鉛球を打ち込まれたいか?」
これでも結構な体格の俺の体をいとも簡単に掴みあげた奴らは
手持ちの拳銃を俺のアゴ元へ突きつけた。
こうやってキリトも脅していたのか。
だけど、ご愁傷様。
「俺はキリトとは違う」
パンパンパンっっ!!
乾いた破裂音とともに床に倒れこんだのは、俺を掴みあげていた男。
それを見かねたほかの奴らが拳銃を構える間も無く
次々と奴らの頭に鉛球をぶち込む。
奴らが全員床に倒れこむのにさほど時間はかからなかった。
ことの始まりはキリトが拉致された時か
俺がキリトを家に連れ込んだ時か
それとも俺がこいつらに鉛球をぶち込んだ時からか
それは全くわからない。
でも、毎日連中に追われる日々が続いても
キリトはこういう
「あそこにいたときに比べたら、お前といる方が全然幸せだよ」
と。
それだけが唯一の救いだったのかもしれないな。
キリトをかくまう理由も
キリトを守る理由も
俺にはないのかもしれないけど
隔離されていた時より幸せだと
彼が思ってくれるなら
しばらくこのままでもいいかと思った。
そしてそれから数日して
Tokyoから朝が消えた。
■一言■
長編パラレルのプロローグです。
かなり長い話で…実は15話まですでに完成してます(苦笑)
ちょっとずつUPしていく予定です。
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