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これを新たな出発点として
踏み出していけるかは
俺自身にかかっていた。
■■■再生の朝■■■
第十話:「踏み出すための脚」
「もっと一緒に居たい」
と自分の本当の気持ちを吐き出せた後、俺はきつくキリトを抱きしめた。
肩がきしんで、「痛い」と声が聞こえても
その腕に込めた力を抜くことはなく、きつくきつく。
あと何度この体を抱きしめる事が出来るだろう
と柄にも無くそんなことを思いながら、キリトの首に顔を埋める。
もっともっと体温を確かめたくて
ただ触れ合うだけでは不安で仕方なくて。
お互いを繋ぐ手は最終的には体だけだと、実感した。
気持ちで繋がっていれば、距離があっても体がなくても平気だ。
なんて、そんな格好いいことは言えない。
いつもの強がりで、例え言えたとしても
結局はキリトの体を求めて、体温を求めてしまう。
それでもキリトと居られるなら
弱いと罵られても、一向に構わなかった。
「おはよう♪」
「(唖然)」
朝・・・というか朝と呼ばれる時間に眼が覚めると
簡易式ランプでそこら中を照らして明るくした部屋が
俺の視界に真っ先に飛び込んできた。
続いて飛び込んで来たのは愛しいキリトの、偉そうでどこか妖艶にも見える笑顔。
キリトに腕を引っ張られてそのままリビングへ出る。
リビングに出ると、これまた寝室と同じく沢山のランプで照らされている。
一体どこからこんなにランプを・・・
「あっやーっと起きた!いつまで寝てるんだよ、タケオくん!」
そういってキッチンから出てきたのはコータ。
顔にも腕にもまだまだ沢山包帯を巻いて
痛々しい姿ではあるが、その顔に不安といった重たい影は見られなかった。
「タケオくん!早く早くっこっち座って♪」
アイジもまた、俺達のところへ来たときとは全く違う明るい表情で。
俺の体をぐいぐいと押して、椅子へとつかせた。
テーブルに目をやると、沢山の豪華な料理。
豪華・・・とは言っても、限られた食料の中でだが・・
それでも目を見張る量の品数である。
「なな・・何コレ・・・」
ようやく口に出せた言葉。
先ほどまで考えていたこととのギャップの差に、いまだ頭が回らない。
「何って俺達久し振りに再会できたから、そのパーティだよ」
そういって酒の瓶を持ってきた潤。
あー久し振りだ、潤のこの笑顔。
ZEROとの事や、自分の体の事、キリトとの事で頭がいっぱいだったから
そんなことも忘れていた。
そういえば・・・2年半ぶりだっけ
こうやって5人が揃うのは。
料理も出揃い、酒も揃った。
テーブルからはみ出さんばかりの品数。
その品を5人で囲んで一息置いたあと、潤がきりだした。
「それじゃあ、久し振りの再開を祝って・・・・カンパーイっっ!!」
キンキンキンっっ
薄いグラスのかち合う音とともに
皆一斉にグラスの中の液体を飲み干す。
酒の飲めないものも一気に。
料理をバクバクと口に含んで、今にも喉を詰まらせそうな者。
それを見て豪快に笑い声をとばす者。
黙々と料理をほおばる者。
それに茶々を入れて嬉々と喜んでいる者。
あぁそういえば・・・
Tokyoから朝が消える前は
ずっとこんな毎日だったな。
俺が望んでいた「自由」とはまさにコレのこと。
好きな人と
自由なことをして
自由にいつまでも生きていきたい。
それがZEROにはなかったんだ。
「タケオ?食わないのか?」
「えっあっいや食べるよ、いただきます」
キリトに顔を覗き込まれ、はっと我に帰る。
ZEROのことも、体のことも全部忘れて
今はこの時間を大切にしよう。
と、料理に手をつけた。
何気なしに箸でつまんだ、ミートボールを口に運ぶ。
口に入れた瞬間に
体内の中心部から激しい嘔吐感が芽生えて
「げほッ」
思わずそれを吐き出した。
「タケオっ!!」
その様子を見ていたキリトが椅子をたつと俺に駆け寄った。
椅子が倒れる音が響く。
口内に溢れる酸味と
嫌な臭い。
「無理すんなっ!気持ち悪いなら無理に食うことないからっ・・」
今にも泣き出しそうなキリトの顔。
「っ・・・ん・・御免っ・・・平気・・」
事情を知っているのはキリトだけ。
他の3人にまで心配を掛けさせるわけにはいかないと
何事もなかったように、体制を戻した。
案の定3人は心配のまなざしを俺に向けている。
「・・・俺ミートボール食えなかったの忘れてた。久し振りに食ったらやっぱり口に合わなくてさ、御免な」
そう言って作り物の笑顔を見せたら
3人は
「なんだもうー!!」と
安堵の息を漏らしてまた、各々の食事へ着く。
今だ俺を心配そうに見ているキリトだったが
大丈夫そうなのを確認して食事に戻った。
また再び懐かしい空気が戻る。
俺は、「手洗ってくる」と一言残し席を立った。
「げほッ・・・はっ・・・ぁッ・・・」
ザアアァアアアアアァッッ・・・
洗面場に立つと、今まで抑えていたものが全て込み上げてきて
我慢ならずに吐き出した。
胃には何も入れてないのにも関わらず
こみ上げてくるこの嘔吐感は何だよ。
血の混じった嘔吐物。
吐き出したモノと共に襲い掛かる絶望感。
「まともに・・・メシも食えないのかよ・・・」
もう食べ物すら喉を通らない。
滅法数週間という命も満更ではないことを照明している。
笑って、食べて、呼吸して、寝て。
生きて。
俺に出来る人間らしいことは何だ?
作り物の笑顔で、ロクに物も口に出来ず、
いつかはその呼吸器官すら動くことを諦める。
そして生きる意味を無くして
一生の眠りにつくんだ。
もうすぐそんな日がやってくる。
俺も素直に笑えなくなるんだろうか。
好きな物も口に出来ず、ガリガリに痩せ細って、
呼吸器官は生きることを諦めて
生きる糧だったキリトを失ってしまうんだろうか。
こうして血を吐いて
一人でいる時に
どうも塞ぎ込んでしまうのは俺の悪いクセだ。
ZEROでのあの何も無かった白い部屋。
あんなところにいたからだろうか。
一人でいる時間が多すぎて
こんなクセをつけてしまった。
むしろ最初から
ZEROになんて関わらなければ
全てはまっさらで綺麗なままだったんじゃないだろうか。
所詮、TokyoをZEROに戻すことなんて・・・・
「出来るよ」
その声に俺は慌てて後ろを振り返る。
そこには、潤が立っていた。
ザアアァアアアアアァッッ・・・
キュッ・・・
流れる水を止めて
吐き出した血でいっぱいの口をタオルで拭いてくれた。
驚かないのか・・・?
「・・・じゅ・・ん・・」
「病気・・・。なんだろ?」
「・・・なんで・・・そのこと・・・」
暫くの沈黙の後、
潤はこう切り出した。
「お前の頭の中を、読んだ」
読む・・・?
「それ・・・どういう・・・」
「小さいときから、俺にはそういう能力があったみたいで・・・・ずっと隠してたけど・・・」
人の頭の中を読むだなんてこと
そんなことが出来るのだろうか・・・・?
でも
今のこの世の中ではありえない話ではない。
「じゃあ・・・今の・・・」
「御免・・・読んだ・・・・でもこのことを皆に話すつもりもないし・・・元々キリトだけに話したことだったんだろ?何も言わないから、安心して」
「・・・御免な・・・心配かけたくなかったんだ・・・」
「構わないよ、タケオくんが決めたことだから」
「・・・・うん・・」
「でもさタケオくん」
ダンっっっ!!!
その瞬間
潤は俺の体を強く壁に押し付けた。
鋭い眼光と、容赦のない力のこもった腕
そして、その口から発せられた言葉。
「じゅ・・」
「黙ってるのは構わないけど・・・」
「俺達より先に死んだら許さないからね」
その瞬間に
何故だか笑いがこみ上げてしまった。
■一言■
再生の朝十話目です。
ようやくマトモに潤君登場。
潤君は人の思考を読むことが出来る能力を持ってます。
一応読みたい時にだけ自由に読む事が出来る能力。
そんな能力ほしーっ(違)
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