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「それでも俺は お前と一緒に居たい」
その言葉が何より嬉しかった。
■■■再生の朝■■■
第九話:「生命を辿る糸」
時計の針は丁度3時半を刺していた。
静かで秒針の音しか聞こえない暗い部屋。
俺の横では愛しい人が寝息を立てている。
この人のおかげで、これまでやってこれたんだろうな。
出会いは突然で、まだTokyoに闇が訪れる前の雨の日
捨て猫のような目で俺を見ていた貴方から目が離せなかった。
放っておけなかった。
あの目から視線を離せなかったから、手を取って家に連れてきたのが始まり。
それから、キリトを追っている奴らと悶着あったりと色々大変だったけど
それでもキリトと居れたその時間が何より好きだった。
「タ・・ケオ・・・?」
「どした、キリト」
体を起こして天井をぼおっと見つめていると、キリトが声を掛けてきた。
寝ていると思ったのに・・・おきてたのか。
「いや・・・体・・大丈夫なのか?」
心配そうに俺を見るキリト。
大丈夫かと聞かれたら、大丈夫だと答えるのが俺であって
ここで弱いところを見せてはいけないと、ずっと思っていた。
俺は皆を守る側の人間だから、弱いところを見せてはいけないと。
だから今日も俺は
「大丈夫だよ、心配しないで」
と、答えた。
いつもなら「そっか、無理するなよ」と帰ってくるハズだったのに
今日ばっかりは、違った。
多分
いつもと何か違うこの空気のせい。
「・・・・嘘吐き・・・」
「え?」
「何でそんな嘘つくんだよ・・・」
「いや、嘘なんかじゃないって・・」
いつもと違う空気、いつもと違う部屋、いつもと違うキリトの目
いつもと違う
2人の距離。
そんないつもと違う全てが何故か怖くて
思わず返す言葉に戸惑う。
「それも嘘・・・お前言ったじゃないか、俺に・・・大丈夫なわけ・・ないだろ・・?」
キリトが嘘吐きと断言している理由はやっぱりアレか。
倒れた時に俺が突きつけた、あの言葉。
「 俺はあと数週間しか生きられないんだ 」
「大丈夫だって。心配するなよ」
そんなことしか口に出来ない自分がイヤだった。
キリトに突っ込まれて思うように返答が出来ずにいる。
キリトの目は俺を捕らえていて、目をそらさせてくれない。
煙草に手を伸ばし、落ち着かせようとしても
金縛りにあったみたいに手が動かせない。
「あんなこと言われて!誰が心配しないでいるんだよ!!」
怖かったのかも知れない。
キリトに全てを否定されるのが。
否定されて、捨てられるのが怖かった。
「キリト・・・」
「俺はっ・・・お前にもっと生きて欲しいよ・・・」
そういってベッドに拳を叩き付けて
ぼろぼろと涙を流した。
暗くても 容易に分かるその表情は
今まで見せたどの表情より落胆していて、どこか寂しげで
「キリト・・・俺・・・」
「強がるなよ・・・辛いなら辛いって言えよ!・・・死にたくないならそういえばいいんだっ・・・」
「何のために俺がいるんだよ・・」
そのときに
昔を思い出した。
キリトが俺と暮らしだしてすぐの頃。情緒不安定だったあの頃を。
何も話そうとせず自分の殻にこもってしまっていたキリトに俺が言った言葉。
そっくりそのまま返されるなんて夢にも思わなかった。
「御免・・・御免キリト・・・」
「どうしてもっと・・・もっと話してくれればいいのに・・俺がっ・・どれだけ不安だったか・・・」
ぱたぱたと布団に落ちる涙の音。
声を詰まらせて必死にそう訴えかけるキリトを見ていて
こんなにも俺が苦しめていたのかと思った。
俺がよかれと思って、言わなかったことがキリトの小さな体を締め付けて
こんなにも悲しい思いをさせていた。
俺にはどうしてやればいいのかわからなくて
とにかくその震えだした体を抱きしめた。
小刻みに震えて、抱き寄せるとぎゅうっとしがみついてくる。
その不安から身を守るかのように。
どうしていいのか、抱きしめてやるだけでは不安で
今までいえなかった言葉を 思い出す。
喉元までその言葉を引っ張りだして、拒む気持ちをさえぎって
「・・・死にたくない」
やっとの思いで口に出した。
一度口に出せば 後はハメをはずしたようにあふれ出てくる
今まで溜め込んでいた 不安が
「もっと・・生きたい・・・・キリトと一緒に居たい・・・・」
「もっと・・・一緒に生きたい・・・」
自分の体がもうもたないこと。
それを知って思ったことは、それだけ。
欲しい物はなかった。
ただ、キリトと過ごせる自由な時間さえ
それさえあれば何も必要なくて
住む部屋も、ベッドも何もいらない。
2人でいられれば
でも俺にはもうそんな余裕すらなかった。
体は日に日に蝕まれて、血を吐く回数も増えていく。
腕は、鏡を見るたびにどこか痩せていくようにも見えた。
もう無理かと限界かと
そう思ったから、キリトに打ち明けた。
「俺はあと数週間しか生きられないんだ」
と。
■一言■
再生の朝9話目。
シリアスの極みみたいになってきました。
凄い落ちていってますが、もう少しでまた浮上していきますので!
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