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知ってるよ。
お前のことなら何でも。
俺は何でも読めちゃうから。
言葉にしなくても
■■■読み■■■
「『やっぱり浮気してたんだね・・・サヨウナラ・・・』って言い残して、ぴゅーっっって!」
「マジで!?!?!こえーー!!!」
仕事の合間の控え室で、タケオくんからそんな話を聞いていた。
何でも、昨日見た夢の話らしくて話の内容聞いて怖いような面白いような。
「コータっ」
「あっお兄ぃ。もう済んだ?」
「おうっ。帰るぞ」
「了解。じゃあ皆お疲れっしたー」
俺の撮りはすでに済んでいて
最後までスタッフと打ち合わせをしていたお兄ぃを待っていた。
今日はお兄ぃが俺んちに来る日。
2週間に1回だけだけどね(笑)
控え室を後にしてそのまま駐車場へ向かう。
お兄ぃは自慢の車のキーを俺に託して、助手席へと座った。
「シートベルトしてね」
「俺にシートベルトをかけさせるような、危ない運転する気か?」
「いや、義務だしベルトは(笑)」
普通シートベルトするでしょ?
ってかシートベルトぐらい文句言わずにつけてください(笑)
自慢の車のキーをまわしてエンジンをかける。
きゅきゅきゅっとタイヤのすれる音がして
駐車場を走り出た。
ここから家まで・・・
高速飛ばして20分か・・・
なんて考えたらお兄ぃが何やらジャケットのポケットをゴソゴソしている。
「どした?お兄ぃ」
「これ。ケータイ変えたからお前の番号入れといて」
そういって取り出したピカピカの携帯をボードの上に放り投げた。
「ってかお兄ぃ自分で入れればいいじゃん。俺今運転してるし・・・・」
「・・・・お兄様に手間をかけさせるつもりかよ?」
「・・・・はいはい分かりました」
多分使い方をまだマスターしてないんだろう。
というか、説明書読むのが面倒なんだな…。
そう思うと何だか笑いが込み上げてきて、可笑しかった。
「・・・・・何笑ってんだよ」
ぷにぷにのほっぺたをちょっと赤らめながら、俺にそういうと
プイっと窓の方へ顔を向けてしまった。
「イイエなにも」
携帯に俺の番号を打ち込んで、登録。
片手運転なんて別にどってことないけど、お兄ぃ乗ってる分
なんだかちょっとプレッシャー。
登録の済んだ携帯をお兄ぃに渡して、丁度通りかかったインターチェンジに入った。
「俺ジュース買うけどお兄ぃは?」
「ビール」
「・・・いやあのね・・・高速のインターチェンジに酒があるわけないでしょ(笑)」
「じゃあ水」
「了解っ」
車を駐車場に止めて、頼まれたものを買いに行く。
家に何もないからせめて飲むものぐらいはね、と思っての配慮。
なのに、ビールって・・・・。
高速のインターチェンジにビール売ってたらびっくりするよ(笑)
お兄ぃに頼まれたミネラルウォーターと自分のジュースを買って
待たせちゃ悪いと急いで車に戻ると…
「・・・ZZZ」
「ぷっ」
お兄ぃは寝てた。
しかも律儀にリクライニングかけて、シートベルトも外しちゃって
すっかり夢うつつ。
「寝ちゃってるよ」
可愛いお兄ぃの寝顔に見入っていた俺だけど
はっと気がついた。
リクライニングしてたら車動かせない…。
起こすわけにもいかず、しばしお兄ぃが起きるまで待つことにした。
このまま朝まで寝られたら困るけどなぁ。
なんて思いながら、ハンドルにもたれかかりお兄ぃに眼をやる。
お腹の上で手を重ねて、本当気持ちよさそうに寝ている。
「お兄ぃ・・・かわいい。」
「・・・ん゛ー・・・・・・あれ・・・・?」
寝ているお兄ぃのほっぺをちょいちょいっと触ると
うっとおしそうに顔をしかめ、何度か目をこすったかと思うと
そのまま目を開けてしまった。
「起こしちゃったね、御免お兄ぃ」
「あー・・・いいようん。イス倒してて帰れなかったんだろ?」
寝起きの割りに頭のさえるお兄ぃはそういうとリクライニングを戻し
シートベルトをかけた。
そうしてまた車を走らせて
10分後には高速を下り、自宅への住宅街を走る。
街はすっかり静まり返ってて
今の時間の街灯なんかじゃ、車内は暗くて見えない。
時たますれ違う車のヘッドライトで、かすかに車内が明るく照らされる程度。
ヘッドライトで照らされたお兄ぃの横顔をちらりと見たら
その顔は酷く思いつめていて、窓の向こうに何かを見つめているようだった。
そんな横顔がやけに色っぽく見えて、綺麗だと思ってしまった俺。
なんだ、なんか今日の俺変かも。
(潤くんにいつもだろ?って突っ込まれそうだな)
そんなことを考えているうちに自宅マンションについた。
車を駐車場へ回してとめる。
「ついたよお兄ぃ」
そういって俺は車を降りた。
続いて下りてくるだろうと思っていたお兄ぃがなかなか降りてこない。
というか下りてくる気配すらない。
どうしたの?と車内を覗くと、シートベルトもつけたままで
じっと俺をみているお兄ぃがいた。
「なぁコータ。もうちょっと走ろう」
「え?走るって・・・・どこを?」
「どこでもいいから。もうちょっと外みてたいんだよ」
「あ・・・うんまぁいいけど・・・」
何を思い立ったのか、突然そう切り出したお兄ぃの言うとおり
とりあえず車を出してきた道とは逆方向へ走り出した。
本当は疲れていたし、眠たかったから少しでも早く家に上がりたかったんだけど…
さっきの思いつめた表情も気になったし、丁度いいかと思って。
しばらく車を走らせているうちに、海岸線へ出た。
もちろんこんな時間に車が通るわけもなく、ただっ広い直線道路は俺たちの車だけ。
そこにお兄ぃが車をとめようといいだし、
海の見える方向へ車をとめた。
車をとめると、ぱちんっとシートベルトを外し真っ先に外へ出たお兄ぃは
どかっと乱暴にボンネットに腰掛けると煙草に火をつけた。
波と浜風の音しか聞こえない静かで、真っ暗な海を見て
思いにふけるお兄ぃ。
一体何を思って、車を走らせようと言い出したのか。
全然俺にはわからなかったけど…
でもお兄ぃがこうすることで、気分が晴れるなら。
思いにふけるお兄ぃの横顔はさっき車内で見せた、あの表情のままで
遠くをずーっと見ていた。
その顔がまたも綺麗に見えて、俺は魅入ってしまう。
「ねぇお兄ぃ」
「ん」
「俺・・・・お兄ぃのこと好きだよ」
「・・・・知ってる」
「そっか」
ふっと顔に一瞬だけ優しい笑みを浮かべて、また海へと視線を戻す。
吸い込んだ煙で喉がきゅっと締まって
眉間にシワを軽く寄せてまた、白い煙を吐き出した。
俺が煙草に火をつけようと、ライターを探していると
すっとお兄ぃがライターを差し出した。
「吸い過ぎんなよ」
「お兄ぃこそ」
ライターを受け取る際にほんの少し触れた指先と指先。
たった少ししか触れてないのに、その指から熱くなっていくのが分かる。
熱い指にもっと熱い煙草を挟んで、きゅっと息を吸うといがらっぽい煙が喉に突き刺さる。
マズイ。
煙草を今まで一度だってウマイと思って吸ったことはないけど、
こんな時だからか、やけにマズく感じて一息でコンクリートに押し付けた。
「勿体ね」
とつぶやくお兄ぃの声が波音に掻き消されそうで、切なくて。
熱い指先はもう誤魔化せなくて、居ても立ってもいられなくて
ボンネット上の細い体を抱きしめた。
お兄ぃの煙草が指先からすり抜けて
地面に溜まっていた水溜りに落ちてじゅっと音がする。
戸惑っているだろうハズのお兄ぃの唇をふさいで
重ねるだけの口付けをした。
お互いの煙草の味で、やっぱり苦かったけど
それでも何もしないで、ずっとお兄ぃのあの表情を見ているよりはずっと楽だった。
唇を離すと同時に体を離して、自分のしてしまったことに目をそむけると
くっとかすかに笑い声が聞こる。
「そんな、ヤバイ事しちゃった。みたいな顔すんなよ」
「だってさ・・・・」
おずおずとお兄ぃの顔を見ると、頬をほんのり赤らめてくくくっと
笑いを堪えていた。
そんなお兄ぃに「だって」と言い訳をしかけると
今度は逆に顔を引き寄せられ、お兄ぃからキスされた。
「お前が俺のこと好きだって事、知ってるっていったろ?」
そのとき思った。
やっぱりお兄ぃには敵わないって。
何時でもいっぱいいっぱいな俺は、1つの行動を取るにも大変で
キス1つするのだって、相当の勇気と決断がいる。
行動に移せたとしても、後のフォローは苦手で今みたいに顔を背けてしまうのが大体。
でもお兄ぃは違う。
何もかも全部理解しているかのように、いつでも余裕綽々としていて毅然としてる。
ホントに兄弟かと疑いたくなるぐらい。
いつも何かを考えているのはきっと
この先を読んでいるんだろうと思った。
俺がどうするとか、そういうのを読むのとは違った
もっともっと深い読み。
車で行く場所なんてどこでもよかった。
ただ、先を読むのに必要な見つめられる場所さえあれば
お兄ぃはいつでも先を読む。
だからずっと、そんな顔してんでしょ?
「ねぇお兄ぃ」
「お兄ぃさえよければ・・・・」
ずっと言いたかった言葉を口に仕掛けた時
お兄ぃがこっちを見て、声を出さずにこう言った。
「一緒に住もう」
って。
■一言■
シリアス…というワケなんですがー…。
正直この小説の中で書きたかったのは、リクライニングを掛けると車を走らせられない。
というそれを書きたかっただけだったり(苦笑)
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