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好きでも伝わらない。
目眩。
第二話:「スキ」と「アイシテル」。
キリトの事はずっと前から好きだった。
その姿を見る度に愛しいと思い、
手が少し触れるだけでそこが熱くなるのが判った。
初めは自分でもそんな気持ちには気付きもせず
ただ胸が苦しいと感じるだけだった。
でも、ある日タケオ君にそんな話をしたら
「好きって事なんじゃないの?それ」
と云われて、
「あぁ俺キリトが好きなんだ」って理解した。
男同士だとか、そういう事に抵抗は無かった。
キリトはどうだか知らないけど
少なくとも俺は、自分の気持ちを有耶無耶にしたくなくて
『キリトが好きだ』と感じたその気持ちを素直に受け止めた。
その気持ちに気付いてから、少しして俺は告白した。
「あーたが好きだ」と。
拒否されるかもしれない。
突き放されるかもしれない。
もう、喋ってもらえないかもしれない。
そう思ったけど、自然と気持ちは落ち着いていた。
キリトは一呼吸置いて、「俺も好きだよ」と返事をくれた。
その夜は、朝まで眠れなかった。
***
そえから2週間して、キリトをウチに招いた。
泊まりに来ない?と誘ったら、また一呼吸置いて「いいよ」と。
二人で車に乗り込んで一言も会話をする事無く、家に向かった。
ソファーで並んでアイスティーを飲み出して
少し、二人の距離が縮まった。
携帯が鳴らない事に意味が無いと云い、解約しようかと云い出したキリトに
俺は云った。
「しちゃえしちゃえ」と。
それはキリトの気持ちが判らなかったから。
それが俺の気持ちを試していた為だなんて、夢にも思わない。
本気でそう思っているのなら、俺には止める権利なんかないし
止めてしまってキリトに嫌われたら嫌だと思ったから
そのまま「しちゃえ」と後押しをした。
一瞬歪んだキリトの目の色。
それに俺は気付かない。
また溜息を付いて、「何?」と聞くと「口から出ただけ」と答えた。
もしかして、淋しいんだろうかと思った。
でもあのプライドの高いキリトが淋しいなんて
表に出すワケないと何処で思っていて、俺はそれに一度気付かないフリをした。
手に持つスコアから目は離さないで、でもチラリと視線を横に流すと
キリトが軽く俯いて、淋しそうにしていた。
それは、嘘じゃなかった。
一度名前を呼ばれて、スコアに集中しているフリをして
生返事を返したら、また淋しそうに「何でもない」と返された。
これはひょっとするとひょっとするかもしれないと思って
俺はカマを掛けた。
『俺が相手してくんないのが淋しい?』
『顔が淋しいって云ってる』
と。
これは一か八かの賭けだった。
賭けだと云っても「何云ってんだお前」と返されるもんだと
120%確信していた。
賭けにもならない賭けだ。
小刻みに震える手で、スコアをテーブルに戻す。
大丈夫、悟られていないハズだ。
「別に。淋しくなんてねぇよ」
当たり前のようにそう返された。
でもそう云った顔は、大層曇っていて
俺はもう一押しだけする事にした。
「俺は淋しいけど」
と。
自分が淋しいのは事実だった。
本当は、もっとあーたを傍に置いておきたいし、
もっと触れたい。
もっと一緒に居たいし、
離れたくなんてない。
でもそれは俺の勝手だから。
あーたに押し付けるワケにはいかなかった。
付き合っても、ベタベタするのが好きじゃない人も居る。
束縛されるのが嫌な人も居る。
たまに逢えるだけで幸せだと思う人も居る。
キリトがそれのどれに当てはまるのか、
それとも全然違う考え方なのか、俺には全然想像も付かなくて。
だから、何も出来ずに今まで居た。
必要最低限のラインだけは絶対に超えないように。
もし俺がそのラインを超えて、自分のやりたいようにやってしまって
キリトにそれを拒否されたら。
そう思うと怖かった。
失いたくなかったから。
震える声で「キスしていい?」と聞いたら
今度は長い沈黙を置いて消えそうな声で「いいよ」と返された。
目は迷いで一杯だった。
でもそれは見えない事にした。
今だけは見えない事にしたんだ。
手を握ったら、ビクリと身体が跳ね上がって俺から視線を逸らした。
「嫌なら云ってね?」
と一応の心遣いを見せると
「馬鹿にすんな」と精一杯の憎まれ口が返される。
でもその憎まれ口も不安で一杯だった。
頭をぽんぽんと撫でてそっと顎を捕らえる。
目をきゅっと瞑ったのを確認して、唇を重ねた。
キリトは触れた瞬間に小さな声を漏らした。
それが酷く怯えていて、唇から伝わる空気も震えていて
俺は酷い罪悪感に駆られた。
短いキスをして
唇を解放すると、キリトはまた目を逸らした。
そして、俺にそっと抱き付いてきた。
その身体は小さく震えていて、キリトの心臓の鼓動が伝わってくる程だった。
背中に手を回して撫でてやると、それは納まり
キリトは心地よさそうにする。
愛しいと思う人と初めてキスをした夜だった。
でも俺の気持ちは罪悪感で一杯で、ちっとも幸せになんて満たされなかった。
愛しい人をこんなに不安にさせてまで
俺はキスしたかったんだろうか?
「嫌なら云ってね?」
なんて偽善者面を見せたけど、キリトが「嫌だ」と云う確率なんて皆無に等しかった。
プライドは高くても、人一倍気使いのキリトが
「嫌だ」と云って俺を傷つけてしまう事をするワケがない。
そんなの云わなくても判る事だった。
それでも俺はそう口にした。
精一杯の心遣いとして。
***
それから2週間して、初めてキリトとSEXをした。
付き合い始めて一ヵ月後の事。
相変わらず、始める前にもヤった後にもその身体は震えていた。
ありえないぐらい小刻みに震えていて
俺が「辞めようか?」と口にすると「寒いだけだ」と強がりを云った。
ここでも俺はまた、偽善を犯した。
「痛い」とは口にしなかった。
たったの一度も。
普通男のモノを受け入れるようには出来ていないソコに
初めて異物が挿入される。
そんなの痛いに決まってる。
顔は苦痛に歪んで、目からは涙が流れていた。
背中に回された手には力がこもり、爪が立てられる。
そんな状況でも最後までキリトは
「痛い」とか「辞めてくれ」とは云わなかった。
***
どうして何も云わないんだろうと思った。
痛いなら痛いと云えばいい。
嫌なら嫌だと云ってくれればいい。
だけど、キリトは俺を否定する言葉は一言も口にしなかった。
付き合っていた半年の間、たったの一度も。
思えば、付き合い始める切欠となった俺の告白の時から
別れる直前まで、キリトは俺を否定しなかった。
それは勿論俺もそうだった。
理由は、壊れそうだったから。
俺が否定する事で、
キリト自身が壊れそうで。
この関係が崩れそうで。
折角手に入れた幸せを失いたくなくて
どうしても気を使ってしまう。
壊さないように崩さないように失わないように。
大事に大事に大事に大事に。
でもそれは大きな過ちだった。
心の奥の気持ちは
言葉にしないと伝わらないんだ。
きっとこの「愛している」という気持ちも
言葉にしなければ伝わらない。
なのに俺達は
その言葉をお互いに伝える間も無く
別れた。
■一言■
久し振りに「目眩」の2話目をUPしました。
物凄い暗ーい話になってきましたが…(苦笑)
このお話は、一応話の大まかな筋をお兄ちゃんが進めていって、
その時の潤君の心情を続いて書いていこうと思います。
また違った感じで。
続き頑張りますー!次はお兄ちゃんだー!
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