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2月といえど
まだまだ夜は寒い。
閉め出されたドアの向こうで。
「あーッッ!!何で帰ってきたのー!?」
「はぁ?」
今日は俺一人での仕事で、長引くかと思っていたが
意外とすんなり事が運び、何時もより早く済んだ。いや、済ませた。
時計を見たら、それでも夜の10時を過ぎていて
俺は鞄を持つとマネージャーと共に仕事場を後にした。
マネージャーに車で送ってもらい、家の前に着いた頃には11時になっていた。
いつもならエレベーターの中で鍵を出すのだが、今日は出さない。
鍵が無くても家には入れるからだ。
チャイムを鳴らせば、アイツが出てくる。
ドアの前で、照れくさくも息を整えてチャイムを押す。
「早かったねー」なんて言葉を期待してドアが開くのを待った。
ガチャリ。
開いたドアの向こうからは愛しい潤の姿。
でもその顔は驚愕していた。
そして俺が「ただいま」を云う前に、奴が云った。
「あーッッ!!何で帰ってきたのー!?」
そりゃ、「はぁ?」とも云いたくなる。
「何でって・・・仕事済んだから」
「仕事もう少し遅くなるって云ってたじゃん!」
「や、早く済んだから・・・」
早く済んだ。というか早く済ませたという方が正しいかもしれない。
だって今日は俺の誕生日だから、気持ち心が弾んでいたのは嘘じゃない。
何かしらコイツと過ごしたいと思っていたのは事実だから。
そう思って早めに帰った俺にコイツは云った。
「何で帰ってきたの?」と。
「帰ってくるなら連絡してよー!」
「あ・・あぁ御免。とりあえず中入れろ。寒い」
潤に文句を云われながらもとりあえず中に入ろうとドアを引こうとすると
それを思いっきり阻止された。
「駄目ーッ!入っちゃ駄目ッ!」
「はぁ!?ココは俺んちだぞッ!?」
「判ってるけど駄目ッ!外に居てッ!!!」
「っざけんな!こんなクソ寒い中で居られるか!!」
「いーから居てッ!!!!」
バタンッッッ!!!!
そしてドアは重たく閉ざしてしまった。
俺は、見事に締め出されたのだ。
俺の家なのに。
まぁでも俺だって黙って締め出される程、馬鹿じゃない。
ココは俺んちなんだからな、鍵で開くっちゅーの。
俺は得意げに鍵を取り出し、鍵穴へ差し込む。
カチャリと開錠される音がして俺はほくそえんだ。
そしてイキオイよくドアノブを引くと・・・
ガチャンッ
見事にドアチェーンが引っ掛かり、開いたのはたったの数センチ。
手が入るか入らないかぐらい。
「クソッ!ドアチェーンかけやがってッ!!」
「外に居てってんでしょー!!」
「お前ムカツクッッ!」
「うるさいよ!あーた!!」
その隙間から叫ぶとリビングから声が返って来た。
本気でムカツクぞあの野郎ッ!
何度かガチャガチャと引いたりしてみるが、チェーンが外れるわけもなく
俺は諦めてドアを背もたれにして座り込んだ。
2月末と云えど、寒の戻りもあって外は冷えた。
薄いコートじゃなくて、厚手のを着て出ればよかったと後悔した。
煙草をポケットからとりだして、火をつける。
吐き出した煙が空にくるりと舞って上がった。
煙草を持つ手が冷たくなる。
「あー・・さびぃ・・」
そうポツリと口にした時、背中が押し返された。
煙草を落としそうになって振り返ると、ちょこっと開いたドアの隙間から
コトリと何かが差し出された。
「寒いだろうから、ハイ」
それは暖かい紅茶の注がれたマグカップ。
勿論ミルクなんて入ってない。
俺はそれを受け取り、ついでにドアを開けてやろうと引っ張りかけたが
潤はそれを予測していて、物凄い勢いでドアを閉めた。
勿論鍵とチェーンのかかる音がする。
くそっ。
まだ入れてくんねぇのかよ。
と思いつつも、入れてくれた紅茶を口にする。
家の中に居るよりも白く感じる湯気。
二口すすったら、顔が熱くなるのが判った。
寒い外で飲む紅茶がこんなにも美味しいなんて思わなかった。
煙草と交互に口に運ぶ。
「はー・・」
なんだか変な感じだ。
自分の家の前で、冷たいコンクリの廊下に座り込んで
どういうわけか廊下で紅茶をすすり、煙草を吸う俺。
空を見上げたら、金色の月が夜の暗闇を照らしていた。
ふと時計に目をやると、時間は11時半をさしていた。
あーもうすぐ誕生日が終わる。
結局コイツは何も祝ってくれないのかよと思うと
ちょっと淋しくなった。
「あー・・・腹減った・・・」
そして腹も減ってきた。
するとまた背中が押し返される。
今度はなんだ?と振り返ると、ドアの隙間からまた何かが差し出された。
「ちょっとコレつまんでて」
それは小皿に盛られたオードヴル。
っていうかさ・・・何でこんなもんが・・。
「おいちょッ!」
バタンッ
「人の話を聞けっちゅーの・・」
ドアはまた硬く閉ざされ鍵がかけられる。
なんだか本当にいい加減腹が立ってきた。
とりあえず差し出された小皿を手に取る。
その皿の上には、ちょっとしたオードヴルがあった。
一口で食べられるものが三つ。
どれも違うデコレーション。
一体なんでこんなものを・・・。
とりあえずそれをポイポイッと口に運び紅茶をすする。
っていうかオードヴルに紅茶って・・・・。
まぁいいかと思いつつ、また空を見上げた。
思い出した頃にまた時計に目をやると
もうあと5分で24日が終わろうとしていた。
あー・・・本当ツイてない誕生日だと思った。
何が嬉しくて自分の家をクソ寒い中閉め出されなきゃならないんだと。
食べ終わった小皿に、まだ半分残ったままの紅茶のカップを重ねて
何本か吸った煙草の吸殻を携帯灰皿へ捨てる。
何もする事が無くなって
はぁと溜息を漏らした時。
また背中が押し返された。
「お待たせッ!早く入ってッ!!」
「ぅえ!?えッ!?」
「早く早くッ!!!!!」
と思ったら、潤が顔を覗かせ座る俺の腕を掴み上げる。
俺は上手く歩けないで、玄関で倒れそうになる。
それを潤が支えてくれて、そのままダダダダーッとリビングへと連れ込まれた。
一歩足を踏み入れたそのリビングで俺が見たのは
「何・・・コレ・・・」
いつもの殺風景なリビングじゃなくて、
テーブルに綺麗に豪華な食べ物が並べられ、
さっき俺が口にしたオードヴルと
真ん中にはでっかいホールケーキ。
酒なんてロクに呑めもしないのに、ワインが綺麗なグラスに注がれている。
部屋の照明は落とされているが、そこら中をロウソクが照らしていて
窓から入る月の光で十分明るかった。
幻想的にも思えるそのリビングに俺は呆気に取られるしかなかった。
「早く席着いてッ!もう2分しかないッ!!」
「えっ?あっ・・・あぁ」
呆然と立ち尽くす背中を押されて、俺はテーブルに着いた。
テーブルの皿の上には何やら小さな箱が置いてある。
潤も時計を気にしながら慌てて俺の前へと腰を下ろした。
「早くッそれ開けて」
「えっ?コレ?」
「早く早くッ!あと1分しかないからッ!!」
早く早くと急かされて俺は理由も判らないままに
その小さな箱を手に取る。
コレもまた綺麗にラッピングされていて
何だか開けるのが勿体無かったけど、とりあえず急いで開ける。
開けた中には
「コレ・・・」
「間に合ったッ!誕生日おめでとう、キリト」
銀色に光るシンプルな指輪。
部屋のロウソク照明に照らされて、七色に光る。
時計を見たら、丁度25日の0時をさしたところだった。
「ふー・・間に合ったー・・本当ギリギリッ!」
「お前・・・この為に俺を外に・・・?」
「え?うんそう。御免ね?寒かったでしょ」
「あー・・うん」
視線は指輪から離せなくて、潤がこの30分ちょっとの間にやってきた行動を思い返す。
早く帰ってきた事に驚いたのは、まだ準備が出来ていなかったからで、
本当はもっと余裕を持って俺を迎えるハズが予定が狂って。
しかも自分の不器用さに想像していたより更に時間がかかって
ギリギリになってしまったと。
そういう理由か。
「それ、俺とお揃いなんだけど・・ヤじゃなかったらつけててくれる?」
潤はそういうと自分の左手を俺に差し出す。
その薬指には俺が手にしているものと全く同じ指輪があった。
「うん・・有難う・・・」
「いやに素直だな(笑)有難う。さ、御飯食べよ!」
潤は俺の頭をぽんぽんと撫でてイソイソとキッチンへと入っていった。
俺は、照れくさいながらもおずおず左手薬指に指輪をはめる。
驚くほどピッタリはまったそれは、きっと外したくてもフィットして離れないだろう。
誕生日は過ぎてしまったけど
誕生日の終わる一分前も、捨てたもんじゃないと思った。
有難う、潤。
外では
俺の飲み掛けた紅茶のマグカップに、月がうつっていた。
■一言■
バレンタイン小説に続き、キリバ小説何とか間に合いました!!
ふぅ。
とりあえず甘々と白イメージで書いてみました。
寒の戻りでまだまだ夜は寒いって云うのも書きたくて。
そんなわけでお兄ちゃんおめでとうー!
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