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忘れてはいけないコト程
蝕まれる記憶。
Vanish
第6話:「リセット」
仕事を終えて、帰る準備をしていた。
タケオ君に話した事で、何かと細かい事にタケオ君が気を回してくれて
不自然も無く仕事の時間が過ぎようとしていた。
何時もより少し早く終わった事もあって、
とにかく家に帰って早く横になってしまいたかった。
今日は一人で居たいと思っていた居たところに
キリトに声を掛けられた。
「なぁ潤。お前んち行ってもいい?」
「あー・・・んと・・」
「具合悪い?」
「あー・・いや御免、今日はゆっくり寝たくて。ちょっと疲れてるみたいで」
「そっか・・・判った。ゆっくり休めよ?無理だけはすんな」
「うん。御免ね?」
「気にすんなっ。どうせまた明日も仕事で逢うんだし」
「ん。ちょっといい?」
「え?」
「抱きしめたい」
「は?ココ控え室・・・」
「ちょっとだけ」
「あー・・うん」
本当は一緒に居ても良かったんだけど
考えたい事あったし、キリトと一緒に居て記憶が無い事のボロが出そうで。
今それがキリトにバレるワケにはいかなかったから。
俺が断ることで一瞬見せた不安そうな表情に
つい抱きしめたくなって、俺はそっとその身体を抱きしめた。
控え室って事もあってすぐに身体は離したものの・・・。
記憶がないにしろ、不安そうな表情を見たりすると胸の辺りがチクリとする。
抱きしめた時に香るキリトの柔らかい匂いに懐かしさまで感じる。
なのにどうして
思い出せないんだろう。
抱きしめる腕さえ、きっと記憶が無くなる前は毎晩みたいに抱きしめていたハズなのに
ちっともその感覚が無い。
「じゃあまた明日」
「おう、お疲れ」
一言告げて、俺はそのまま控え室を後にした。
どうかコレが最後になりませんように。
車を飛ばして家に着いて、重たいドアを開けたら
何時もと何一つ変わらない空気が流れ込む。
リビングのソファーに腰を下ろして身体を横たえた。
天井をの白さを見るのが怖くて、横を向いた。
「・・・はぁ」
口から出た溜息の大きさに自分でもびっくりした。
車を走らせている時も、エレベーターに乗っている時も
考えている事はずっと一つだった。
どうして忘れてしまったんだろう。
幾ら大切に思う気持ちが大きいい所為で忘れた。
と思っていても、どうしても理不尽に思う。
こんな部屋の空気ですら覚えているのに
どうしてそれよりも大切な人のことを忘れてしまったのか。
それが判らなかった。
あの細い身体を抱きしめていた事。
愛しいと感じて愛していた事。
全部全部、その記憶はどこかへ失われていった。
「記憶返してよ・・」
ポツリと出た言葉はきっと本心だ。
大事な記憶を返して欲しかった。
あの人のとの大事な思い出を、記憶を俺から奪わないで。
その時携帯が鳴った。
ポケットの携帯を取り出し、眩しいぐらいの液晶に目をやると
メールだった。
相手はキリト。
一瞬の躊躇いと共にメールを開く。
『具合悪そうだったから大丈夫かと思って』
それだけの言葉が馬鹿みたいに愛しい。
こんなにも愛しいと思う人をどうして俺は。
返事に大丈夫だよと打って携帯を閉じる。
閉じて間も置かずにまた携帯が鳴りメールが届いた。
『思い詰めてんだろ』
「嘘。何で判るの・・?」
ココに居るワケでもない。
別に話を振ったワケでもない。
なのにどういうワケはあの人はそう云った。
どうして?と返すとすぐにまた返事が届く。
『勘』
どんな勘してるんだよと思いながらも
大丈夫だから。と返すと今度は少しの間が開いた。
もう返って来ないかと思っていたら、携帯が鳴る。
受信ボックスを開いて、表示されていた文字に身体が震えた。
『俺の前から消えないで』
どうして判ってしまうんだろうと思った。
今、俺の気持ちの何処かで
『このまま消えてしまえば』と思っている部分があった。
それは、俺も薄々としか感じないぐらい遠くにあったものなのに。
傍に居るワケでもないあの人にはそれがバレてしまっていた。
この分だと、記憶がない事がバレるのも時間の問題だと思わされる。
返事を打つにも何も返せずいるとまたもう一通届く。
その文章に、今度は振るえが止まって凍て付いた。
指の先がピリピリしびれているのが判る。
『死なないで』
ありえないと思う反面。
自分の全てを見透かされたようで怖かった。
事実そこには、そこには消えてしまえばいいと思っていた俺が居たから。
だって、記憶を忘れてしまうぐらいなら
始めから何も無かった事にすればいい。
大事なあーたを忘れるぐらいなら
死んだ方がマシなんだから。
俺は携帯の電源を落とし、テーブルに置くと
コートも着ずに、部屋を出た。
きっとこの部屋には戻らない。
どうせ蝕まれて全ての記憶を失うぐらいなら
始めから何も無かった事に。
そして全てをリセットしよう。
電源の落とされた携帯にその後もう一通のメールが届く。
それはきっともう誰にも見られる事は無い。
『着信:キリト』
【内容】
お前が死ぬなら、そん時は俺も一緒だ。
■一言■
いよいよ話も最後になって参りました。
さすがに「Jealous」程長くはならないと思われますッ!多分。
っても次で7話目になるので…それでも長いですが(苦笑)
精神の乱れている時に書くとどうしても落ちてゆく…いかんいかん!
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