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素直になれたらどれだけ楽かと思う。
目眩。
第一話:「サヨウナラ」と告げた日。
潤と付き合ってもうすぐ半年が経とうとしていた。
告白したのは潤の方からで
「好き」だと云われた時に「あぁそうだったんだ」って思った。
同性だからどうとか、そういう拒否感は無くて
寧ろ俺は素直にその気持ちを受け入れた。
「俺も好きだよ」
と返事をして。
***
それから2週間して、初めてキスをした。
それまで手を繋いだりもお互いの家に泊まる事も無く
本当に付き合っているのかすら疑いたくなるような日を過ごしていた。
でも、その日の俺達は何かが違って、
「今日、泊まりに来ない?」
「・・・・いいよ」
俺は誘われるままに、潤の家に家に行った。
いつもなら「どうして?」だのと理由を聞いたんだろうけど
何かがおかしかった俺は、それすらせずに了承した。
帰りの車の中でも雰囲気が違った。
一言も会話をする事無く、俺も外で流れる景色ばかりを眺めていた。
家に到着して、部屋に入った所で初めて口を開いた。
「勝手にソファー座るぞ」
「あぁ、どうぞどうぞ」
ドカッとソファーに腰を下ろして、
目の前のテーブルにあったスコアを手に取った。
「練習してんだ?」
「うんまぁ一応ね。あーたアイスティーでいい?」
「おう」
自分も持っているスコアを改めて見直したって面白くもなんとも無い。
スコアを無造作にテーブルに戻して、俺は携帯を開いた。
着信なし。
「はぁ」
「なぁに?溜息ついてさ」
携帯をポケットに戻しぐぐっと伸びをした。
と、同時ぐらいに潤がキッチンからアイスティーを手にして出てくる。
コトリとテーブルにそれを置き、自分も俺の横に腰を下ろした。
「いや、携帯が暇そうだなーと」
「暇のがいいじゃん」
「そうだけどさ、持ってる意味ねぇじゃん」
「まぁねぇ。俺もそんなにしょっちゅう使うワケじゃないしね」
「携帯解約すっかなー」
「ははッ。しちゃえしちゃえー」
冗談で発した一言に潤が乗ってくる。
勿論それも冗談だって事ぐらい判ってたけど
胸の辺りがチクっとした。
仕事に出れば毎日顔を合わせるから
別に携帯なんて無くても平気だけど。
「はぁ」
「今度は何?何の溜め息?」
「や、ちょっと口から出ただけ」
「ふぅん」
潤はこくこくとアイスティーを胃に流し込み
テーブルのスコアを手に取る。
それに目を通し初めて、潤の視界から俺は映らなくなった。
呼んだのはお前なのに。
潤に目をやると、その目は真剣にスコアを追っていた。
口許にはアイスティーの注がれたグラス。
グラスの淵に口をつけたまま、目だけが動いている。
「なぁ潤」
「・・ん?」
呼んでも生返事が返って来るだけで
こちらを向いてはくれない。
「・・・何でもない」
そんなんじゃ、出かけていた言葉も引っ込んでしまう。
俺は視線をテーブルに戻した。
「・・・どしたー?」
「何でもないよ」
「俺が相手してくんないのが淋しい?」
「え?」
「顔が淋しいって云ってる」
何を云い出すかと思えば。
潤はスコアをテーブルに戻し、俺に目をやる。
あぁやっとその目に映れた。
「別に。淋しくなんてねぇよ」
「嘘。淋しいって顔してたじゃん」
「んな事自分で判るかよ」
「はははッ。そりゃそうだ」
そっと頭に手が回されて、潤の肩に首を置くような形にされた。
「俺は淋しいけど」
ポツリと呟いた潤の言葉。
「え・・」
「俺は淋しいよ。あーたに相手して貰えなかったら」
「何云って・・・相手してないのはお前の方だろ」
「そう見える?」
「ってお前俺に何もしないじゃん」
「違うよ。しないんじゃないよ」
「何」
「しないんじゃなくて、出来ないの」
出来ない?
「どうして?」
「何かあーたに触るのが怖いんだ」
「怖い・・?」
「うん。壊れそうで怖い」
壊れそうで怖いって。
俺はガラスか何かかっちゅーの。
「触られたぐらいで壊れねぇよ?俺は」
「ううん。壊れそうだよ。ガラスよりもっと脆そう」
「んな事ねぇよ」
「そう?」
「そう。俺、そんなに弱くねぇもん」
「だったら、キスしていい?」
一瞬で空気の流れが変わった。
手も繋いだ事すらなければ、泊まったのだって初めてなのに
なのにいきなりかよ。って思ったけど
「弱くない」と口にした手前後には引けなかった。
だから
「いいよ」
そう答えた。
***
それからまた2週間して、初めて潤と肌を重ねた。
付き合い始めて一月後の事だった。
一度ヤった後は、ほとんど毎日みたいにSEXをした。
目が合って、キスをしたらそれが合図。
ソファーでする事もあれば、仕事先で隠れてやる事も多かった。
そんな生活が続いて3ヶ月。
付き合い始めて4ヶ月。
俺の気持ちのどっかがガラガラと音を立てて崩れ始めた。
潤とSEXをすればするほど、不安になるようになった。
「好き」だとは云ってくれても、「愛してる」とは絶対に云ってくれなかった潤。
俺を抱く腕が温かくても、何だか寒い。
俺の中がアイツで一杯になっても、何だか満たされない。
満たされない身体は、何時の間にか不安だらけになっていた。
それから一月。
俺はアイツに「サヨウナラ」を告げた。
付き合って半年の事だった。
■一言■
ウザイぐらいに長編ばっかり増えてゆきます(死)
Jealousとはまた違った感じの恋愛物ということで「目眩。」です。
続き頑張っていきたいと思います。
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