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言葉で伝わるモノ。
お前の所為。
例えば。
仕事を終えて家に帰ろうとしたら、タイミング良く携帯が鳴り
『来い』とだけ書かれたメールに、愛しい人の家に向かったとしよう。
愛しい人の家に着いて、チャイムを鳴らしても一向に出てこないので
合鍵で中に入ったら。
リビングでソファーに真っ赤な顔をして
愛しい人が倒れていたら。
貴方ならどうする?
「ちょっッ!何っ!?どうしたの!?」
「うぇ・・・?潤ー・・・?」
「って酒臭ッッ!!!!!」
顔だけではなく喉元から鎖骨に掛けてまで真っ赤にして、
愛しい人、キリトはソファーに横になっていた。
定まらない視点で俺を見るあーたの目は本当におぼろげ。
近寄り抱き起こすと、嫌なぐらいにアルコール臭が鼻をついた。
「あーた酒呑んでんの!?」
「うー・・・ちょっと・・・」
「ちょっと!?」
そう云われてふとテーブルの下を見ると
ビールの缶がこれでもかってぐらい転がっていた。
目で確認しただけでも、片手では数え切れないぐらい。
「これがちょっとかよ・・・」
そう云わざるを得ない状況。
ようするに、酒に酔っているのだ。
「何で酒なんて呑んでんのよ?!」
「お前がー・・・相手してくんないからー・・・」
「はぁ?俺毎日みたいにあーたの相手してんじゃん」
「上の空の癖にー・・・?」
「んなことないよ。とりあえず、俺の方に持たれてていいからね」
キリトの横に腰掛け俺に身体を持たれかけさせる。
肩に頭をくてんと乗っけてぼーっと前を見るキリト。
その身体から、触れている面積は少ないものの、怖いぐらいに熱が伝わってくる。
どんだけ呑んでんだよ本当。
「大丈夫?もう寝る?」
「大丈夫・・・・」
「どうしたの本当に。明日も仕事あんのに酒呑むなんて」
「・・・・お前が冷たくするからだ」
「俺がぁ?」
「俺に冷たい癖に」
理由を聞けば、俺が冷たくした腹いせに酒を呑んだという。
俺が冷たくしたって・・・・。
「俺、あーたに冷たくした?」
「エッチしてても上の空だろッ!俺の目はー!誤魔化せねぇぞッ!!」
「わわわわッ!!」
突然俺の胸倉を掴んだと思ったら
そのまま俺の上にのっ掛かってきて、結局体制を維持する事は出来ず
俺はキリトに押し倒される形になった。
「いてー・・・頭打った・・・」
ソファーの腕置きでイキオイよく頭をぶつける。
そこまで痛みは無いが、衝撃は半端ではない。
痛みを口にする俺の上に跨るようにして、キリトはのっ掛かったままだった。
「話をー聞けッ!!!」
「聞いてるよ」
「お前はー!俺に冷た過ぎるっ!!!」
胸倉は相変わらず掴んだままで、口調もおぼつかない様子。
こりゃ相当酔ってるな・・・・。
「冷たくしてたなら謝るよ。御免ね?」
「それだけじゃないッ!お前はー!俺の事嫌いなんだろッ!」
「ふぇぇ?」
「嫌いなんだろッ!?云ってみろ!!!」
「んなワケないでしょうに。嫌いだったら此処にも来ないよ」
「同情してんじゃねぇのかよ!」
「してないよ。どーしたのあーた本当」
酔っているだけとは思えないこの言動。
ちょっと異常だな。と思いながら、その頬に手を添えた。
「俺なんかよりッ別の奴のがいいんじゃねぇのかよ!」
「俺はあーたが一番好きだって何時も云ってるじゃない」
「そんなの口ではどうとでも云えるッ!!!」
「何?信じてくれないの?」
「信じられないっ!」
「・・・ちょっと、本当どうしたの?おかしいよ?」
俺の言葉に、キリトはぱっと顔を背けてしまった。
胸倉を掴む手が離されたのを見計らい、身体を起こす。
「キリト?どうしたの?」
言葉を掛けても、こっちを向いてはくれない。
「キリト?俺何かした?」
「・・・・・・」
「云ってくんないと俺判らないよ」
そういうと、きっと俺へと向き直り睨みつけてくる。
その目は涙で一杯だった。
「何泣いてんの!?どーしたの!?」
「泣いてないッ!!!!」
イキナリの事にびっくりした俺は虚を突かれた。
泣いてないと云いながら、今にも目から涙が毀れそうで。
「泣いてるじゃない!何?どーしたの!?」
「ッ・・・お前ムカツクッッ!!!」
理由も判らないままに、俺の身体を突き飛ばす。
いや本当なんで泣いてるんだよ。
「キリトッ!ちゃんと理由云って!何を泣く事があるの!?」
「お前が俺の事好きじゃないからッ」
「何でよ?俺好きだよあーたの事」
「嘘だっ!!」
「何でそう決めつけるの?」
「ちっともお前から好きだって伝わって来ないッ!!!」
暴れるキリトの腕を掴んで、抱き寄せると
ドンドンと胸を叩かれる。
でも、今離したらもっと取り乱しそうで怖かったから
叩かれる度にその身体を抱きしめた。
「伝わらない?俺が好きだってのが」
「だって!お前ッ!・・・俺と居たって楽しそうじゃねぇしッ・・・」
「楽しいよ?凄い楽しいよ」
「全然ッ・・・最近相手してくんないしっ・・」
「俺も忙しかったから・・」
「お前全然ッ・・・俺の事気にしてくんねぇじゃんッ!!」
顔は見えないけど、多分ボロボロ泣いてんだろうと思う。
声も詰まり詰まりだし。
これだけ呑んで、これだけ泣くって云う事は
相当俺からの気持ちの不信感が募っていたんだろう。
俺は、そうも感じて居なかったけど
受ける側のキリトからすれば、こんなに不安だったんだなぁと思うと
更に愛しく感じた。
身体をきゅうと抱きしめると、俺の胸を叩いていた手は
何時しか背中に回されて、顔をすりすりと摺り寄せてくる。
その手は、微かにだけど震えていた。
「御免ね?俺、もっとあーたの事気に掛けるべきだった」
「ッ・・・・ホントに判ってんのかよ・・」
「判ってる。もっとこれからはあーたの事大事に思うから」
「・・・・思わなかったら・・?」
「そん時はキリトチョップでも何でもすればいいよ」
「忘れんなよッ・・・馬鹿潤・・」
「ん。御免御免」
ぽんぽんっと頭を撫でると、キリトは「もう平気」と俺から離れた。
「あーたそれでこんなにもヤケ酒してたの?」
「そう・・・」
「そんなに不安だった?」
「当たり前だろ馬鹿ッ!・・・俺達男同士だしっ・・・何時お前が居なくなってもおかしくねぇしッ・・・」
「馬鹿だねぇあーたもー・・。あーた置いてどっか行ったりしないよ?俺」
「保証がねぇだろッ!!」
「保証するよ。ずっと一緒に居るから」
「ッ・・・・絶対だぞ・・」
「うん絶対」
「・・・・・じゃあ・・・納得する・・」
「うん納得して?」
「した・・」
「ん。不安になること無いのに」
涙を袖で拭ってやると、目の周りの赤さが更に際立った。
あーもう目真っ赤。
明日仕事なのに。
「気分大丈夫?気持ち悪くない?」
「・・・・ちょっと気持ち悪い・・」
「ベット行ってて。水持っていってあげるから」
そう云って俺がキッチンに向かおうとすると
袖を掴まれそれを静止された。
「何?」
「・・・ついてく」
「えぇ?気持ち悪いんだったら早くベットに行っときなって」
「ついてくんだよッ!!」
「あぁもうはいはい。一緒にいこじゃあ」
わざわざキッチンに行くだけなのに。
とも思ったけど、まぁいいかとその手を取って二人でキッチンに向かった。
冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、そのまま寝室に向かう。
その間もずっと、ぺったり傍にくっついてキリトは離れなかった。
「はい、ベット到着」
ベットに座らせて、俺もそのまま横に腰を下ろす。
ボトルを渡すと、こくこくとキリトは胃に冷たい水を流し込んだ。
「大丈夫?寝れる?」
「平気。お前も寝ろ」
「え?俺でも風呂入ってないし・・・」
「いいから寝るんだよッ!!!」
「あーはいはい。じゃあパジャマ取ってくるから」
「このままでいい」
「えぇっ!?せめて着替えようよ」
「いいのッッ!!!!」
「はい」
イキオイでパジャマに着替えない事を承諾してしまった俺。
あぁ寝にくい・・・服のままでしかも風呂にも入れないなんて・・・。
でもまぁ着替えようにも風呂に入ろうにも
キリトがしっかりくっついているのでままならないし、
仕方ないかとベットに横になった。
横になった俺の腕をしっかり掴んで離そうとはしないキリト。
その身体を抱き寄せたら、イヤイヤと首を振られた。
「なぁに?ぎゅうはしなくていいの?」
「いい。代わりに手繋げ」
「命令かい(笑)」
「いいからッ!!!」
「あぁもうイチイチ怒らないでよー・・・はい、手」
身体を離し、手を握った。
手はアルコールの所為もあって、熱いぐらいだった。
「大丈夫?ホントに」
「うん・・・平気」
「ヤケ酒なんてもうしないでよ?」
「お前がさせてんだろ」
「はいはい、全部俺が悪いんだよね」
「そう」
「そういうとこは素直なのにねぇ」
「何か云ったか?」
「イイエ」
「じゃあもう寝る。頭ふらふらするし」
「ん。ゆっくり寝な」
「はい」
「はいって(笑)」
「オヤスミ」
「うん、オヤスミ」
それから5分もしない間にキリトは眠りに落ちた。
そりゃあれだけ呑んでたらね。
寝たのを見計らって、せめて着替えようと思ったけど
しっかり手を握られていて、それを無理矢理解けば目を覚ましそうだったから、
結局そのまま朝を迎えた。
翌朝。
「あー・・・頭痛ぇ・・・」
「そりゃそうだ。あんだけ呑んでんだもん」
「もう仕事行かない」
「はぁっ!?駄目駄目ッ!用意して用意ッ!!」
「無理。オヤスミ」
「あぁ!布団に戻るなーッ!!!」
激しい頭痛と吐き気の二日酔いに見舞われたキリトを
エンヤコラと担いで仕事に行く事になった。
「しっかりしてよ!」と云ったら、「お前の所為だろ馬鹿ッ」だなんて。
何でもかんでも俺の所為にするんだから。
まぁ愛しいあーたの云う事だから
許してあげましょう。
■一言■
不安になってヤケ酒する兄やんを書きたくて書いてみました。
絡んできても、怒らないで対処する潤君もいいなぁなんて。
ただ尻に敷かれているだけかも(笑)
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