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THE TRUTH
第5章:「交わしたモノ」
「き・・・・リト・・・・ッ」
「大丈夫か!?潤ッ!!!」
「ッん・・・平気」
俺を抱きかかえるキリトの顔は
本当に不安そうで。
あーたが助けてくれなかったら、俺ホント死んでたよ。
「ッいったー!!!」
素っ頓狂な声が部屋に響く。
そうだアイツ。
思い出したように吹き飛ばされたアイジに目をやる。
ヤツは床に座り込んで頭を抱えていた。
「ちょっとキリト!酷いじゃんふっとばすなんてー!」
「お前がコイツを殺そうとするからだろ!!」
「俺はキリトが出来なかった事をしてるだけでしょー!大体キリトが殺さないからいけないんじゃん!」
「コイツには手ぇ出すな!」
「勝手な事云わないでよッ!何時から人間の味方するようになったのさー!」
「そんなんじゃねぇよ!」
「タケオ様を裏切るつもりー!?」
「ッ・・・」
アイジが口にした「タケオ様」の言葉にキリトが躊躇の色を見せた。
タケオ様って・・・確かさっきもそんな名前を・・・・。
「その辺どうなの?裏切るのー?あんなに慕ってた癖に」
「慕ってたワケじゃねぇよ」
「じゃあ何で?何でコイツの味方するんだよー!」
「だから別にそういうワケじゃ・・・」
「タケオ様に云い付けてやるー!」
「勝手にしろッ!」
二人のやり取りは何だか兄弟喧嘩みたいだった。
いや、多分相手がアイジだからだろう。
あの独特の語尾延ばしの喋り方に掛かれば
内容の重たい話もこうなるのだ。
そんな事を考えている間に
呼吸も落ち着いてきて、俺は自分の首に手を這わせる。
ヒリヒリするのは、多分アイジに締め付けられていた所為だ。
痣になってるだろうな。
その時
部屋の空気が急に変わるのが判った。
「・・・・何だ?何か・・・空気が」
「ッ!この気配・・・」
部屋の空気が重たくなったように感じ、
急に息がし辛くなる。
折角、呼吸が整ってきたのに、なんだって云うんだ。
俺が軽く咳き込むのを見て、キリトが辺りを見渡す。
「タケオ様、話聞いてたみたいだね」
ニンマリとアイジが笑みを浮かべた刹那。
部屋の空気がグルリと一周し
辺りに置いてあった軽い物が全て中に巻き上げられ床に叩きつけられた。
風の強い日の外のように、風が小さな渦を巻いている。
室内なのに。
そしてその風の合間を縫うように、俺の視界にボンヤリと黒い影が見え始める。
始めはボンヤリとしか見えていなかったそれは
徐々にその姿を鮮明にして、アイジの横に一つの人の姿として立った。
髪は明るい栗色。服は真っ黒のスーツ。
背中にはアイジやキリトとは比べ物にならない程、綺麗で大きな漆黒の翼。
閉じていた目が開かれた瞬間、俺は背筋が逆立つのが判った。
瞳の色は、アイジと同じ紅だった。
その男の横に居たアイジは、一歩下がり翼を納める。
キリトは、ただその姿を睨みつけているだけだった。
「タケオ様ッ!どうしてここに・・・」
「理由は判ってるんだろ?イチイチ聞くなよ」
「ッ・・・・」
コイツがタケオ様・・・・?
キリトの手が震えているのが目に見えて判る。
そんなに怯えなきゃいけない程の奴なのか?
人間の俺から見ても、その威圧感がキリトやアイジと違う事は判る。
でも、そんな怯える程じゃ・・・
「えーっと?君が潤君?」
男はキリトに返した声よりも、いくらかトーンの高い声で俺に話しかけた。
「そう・・・だけど」
「初めまして。俺はタケオ。キリトやアイジの上司みたいなモン」
「上司・・・」
「そう上司。キリトから君の話は聞いた。仲良くしてくれてるみたいで、ウチのキリトと」
そう云ってタケオはぼふんっとベットに腰を下ろす。
「見た所、そんな悪い人間でも無さそうだし、キリトが夢中になるのも判るよ」
「タケオ様ッ!コイツは・・コイツにだけはッ」
キリトがタケオの話に言葉を刺すと
タケオはぐるりとその視線をキリトに向き変える。
途端にその瞳の色が変わった。
「お前は黙ってろ。俺はコイツと話してんだよ」
「ッ・・・」
まさに一喝だった。
静かに放ったその一言でキリトは言葉を失う。
その目はただのプレッシャーとか気迫とかそんなもんじゃなくて
もっと別の何かが作用してるように思えた。
「さてと、話を戻すけどー」
そしてまた俺へと話は戻される。
「キリトはね、俺んトコに来て君を殺せないって云うんだよ」
「え・・・」
「君の事が大事なんだって。だから殺せないって」
「大事・・・」
「そう。でね、あんまりにも聞き訳が無いから、アイジに君を殺すように命令したんだ」
それでアイジが俺のところに。
キリトが俺の事を殺せないって・・・・。
震える程恐れている奴にわざわざそれを云いに?
「もう殺せた頃かと思って来てみたら。なんのその、君はまだ生きてる」
「生きてて悪いのかよ・・・」
「悪い。困るんだよね、君に生きてて貰っちゃ」
タケオはそういいながら俺との距離を徐々に縮めていく。
その距離は3mから2m・・・2mから1m。
しゃがみこむ俺の目の前に、奴の足がある。
「タケオ様ッ!コイツには手を出さないで下さいッ!!」
「はいはい、キリトはこっちー」
「ちょッ!アイジッッ!離せッ!」
近付くタケオに掴みかかろうとするキリトを抑えたのはアイジだった。
アイジはキリトの身体を強く壁へと押し付ける。
その間にもタケオと俺の距離は縮まり、奴がしゃがみこんだ所為で
鼻先30cmに奴の顔がある状態。
逃げようと腰を上げようにも上がらない。
どういうワケか身体が動かないでいた。
紅の瞳から目を外せない。
吸い込まれるように目線を奪われたままだ。
「逃げないの?それとも逃げられないのかな?」
「っぅ・・・」
「綺麗な肌してんね。人間にしとくのは勿体無い」
タケオは俺の頬にするりと手を這わせる。
その手はするすると首を伝い胸元を伝い下りていく。
「潤ッッ!!やめてくださいタケオ様ッ!!!」
「アイジ。黙らせて」
「はい、タケオ様」
「ッ!!!」
目線は外さずに一喝した言葉に、アイジはキリトの口を手でふさぐ。
片手で口を押さえ込んで、さっきまで納めていた翼で身体を壁へと押し付けていた。
それを何とかしてやりたいと思う俺の気持ちとは裏腹に
身体はちっとも動かない。
まるで金縛りにでもあったみたいに。
「キリトとはどこまでいったの?」
「っ・・・まだ何もしてねぇよ」
「本当?」
「何もしてないッ」
「ふぅん。潤君?俺さ、君に一つ忠告しておこうと思って」
「ッ!」
タケオは俺とキリトの関係を確認すると
俺の髪を掴み上げた。
頭が上に引き上げられて、抵抗しようにも手も足も動かない。
「身体動かないでしょ?それは君が俺に恐れを見せてる証拠だよ」
「ッ・・・」
「忠告してあげる。キリトは俺のだから」
「何云ってッ・・・・」
何を云われるのかと思ったら
キリトは自分のモノだと云い張る。
一度目を伏せて、次に俺に向けられた視線は
さっきの非じゃない程、何かが満ちていた。
威圧感?
気迫?
そんなモンじゃない。
もっともっと俺たちに近い何かが
「いッ!!」
髪を掴む手にギリッと力を込められ
俺は溜まらず痛みを口にする。
「君なんかに渡すワケにはいかないんだ」
威圧感でもなくて
気迫でもない。
じゃあこの俺に向けられるモノはなんだ?
俺にだけ向けられるこの得体の知れないモノ。
俺だけに?
俺だけに向けられるモノ?
それがもし殺意でもないのなら
「キリトは俺のペットだから。大事な。お前なんかには渡さない」
嫉妬だ。
コイツが今俺に向けているのは嫉妬。
「お前ッ・・・キリトの事ッ・・・」
俺が口にしようとした先の言葉を読んで
タケオは口角を上げて笑った。
そしてその顔との距離が縮まる。
「君に夢を見せてあげる。悪夢というサイコーの夢を」
「っ」
縮まる距離は留まる事を知らず
俺はそのままタケオに口付けられる。
抵抗も出来ず、されるがままの俺。
視界の横でキリトがアイジを振りほどこうとしているのが見える。
その目には涙が見えた。
刹那、無理矢理こじ開けられた口内にズルリと何かが流れ込んできた。
物体ではない何か。
色が判るワケではないが、『黒い』と感じたそれは
躊躇いなく俺の身体の中に流れ込んだ。
途端に激しい頭痛と目眩がして
俺は意識をなくした。
「これで君も仲間入りだ。死神の世界へヨウコソ」
薄れゆく意識の中でぼんやりと耳にしたのは
泣き叫ぶ愛しい人の声と、翼が羽ばたく音。
月はまた、雲に隠れてしまっていた。
■一言■
というわけでお待たせしました、忘れた頃に死神話の続きUPです(笑)
やっとこさタケオさん登場!アイジといいタケオさんといい…潤君、唇奪われまくりです。
次からコータ登場しますっ!
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