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家に帰ると
俺に沢山の豆が投げつけられた。
鬼は外。
「鬼はーーーーー外ーーーーッッ!!!」
「いででででででででででーッ!!!!!」
アイジとの仕事を終えて、家に帰った俺に
イキナリ、何の前触れも無く豆が投げつけられた。
「鬼はーーーーーーーーーッッ!!!」
「判った判った判った判ったからストーーップッッ!」
また豆を投げつけられそうになり、俺は思わずストップを掛ける。
豆を投げつけているのは勿論、キリト。
合鍵を使って家にいるのは知ってたけど・・・・
まさか豆投げてくるとは夢にも思わなかった。
「何で俺に豆投げるの!?」
「鬼だから」
「鬼?俺が?」
「鬼畜」
「ぶッッ」
何で俺が豆を投げつけられなきゃいけないのかと聞けば
鬼畜だからと答えるあーた。
その手には袋詰めにされた豆が沢山。
「厄払い 鬼退治豆」なんてデカデカと書かれている。
「だから、鬼はーーーーーーーッッ!」
「だからストッーーーップ!!!」
またもや豆を握り締め振りかぶるキリトにストップを掛ける俺。
豆を投げるな豆をー!
「あのね、それは鬼になげるのであって俺に投げるんじゃないの!判る!?」
「判る。でもお前は鬼畜っちゅー鬼だから」
「や、納得出来ないからそれ(笑)」
「何で?今日は節分だぞ」
「判ってるよ。だけど俺には投げないで。痛いから」
「何だよつまんねぇな」
「大体掃除する方の身にもなってよー。もう玄関豆だらけだしさ」
ふと視線を落とせば、玄関は豆だらけ。
あぁ掃除しとかなきゃ・・・リルが食べちゃうや。
そんな事を考えていると、目の前に豆が差し出された。
「ん?」
「はい。歳の数だけ食え」
「あぁ何かそう云うねー。とりあえずさ俺中入っていい?」
「んぁ?あぁどうぞ」
ってココ俺んちだっつーの。
イキナリ豆を投げつけられたもんだから、靴すら脱いでない。
俺は床に散らばる豆を踏まないようにリビングに入る。
が。
「何コレーッッ!!!!!」
玄関どころか、リビングの床もすでに豆だらけだった。
足の踏み場も無いぐらい。
ゲージから出して欲しいと哀願する愛猫のゲージにまでちゃっかり豆が巻かれていた。
リビングの床に巻かれた豆の量はハンパではない。
足の踏み場なんてありゃしない。
「あーたッ!何したのコレー!!!」
「何って・・・豆巻き」
「一体どれだけ巻いたの!?」
「この袋があと4つあったけど、全部無くなった」
「・・・・嘘・・・」
「ホント」
4袋・・・・?4袋・・・・?
そんなに巻いたの?この狭い部屋に?
気が遠くなりそう。
それを人事のように、キリトは豆を数えながら口に運び
唯一豆の巻かれていないソファーに腰を下ろした。
「ここは聖地」
「聖地?」
「そう。鬼の入れない聖地。俺の憩いの場」
よく見るとソファーの前のテーブルにも豆は巻かれていない。
テーブルには煙草やら飲み物やらが綺麗に並べられていて
イチイチ動かなくても、手の届く範囲に全てがある状態。
本当に聖地のようだった。
とりあえず後で片付けようと俺もソファーに腰を下ろそうとする。
が。
「お前は入っちゃ駄目なんだよッ!!」
「痛いッッ!」
そう云って豆をまたぶち投げられて俺はソファーに座る事が出来なかった。
豆を投げられて、バランスを崩し幾らか床の豆を踏み潰した。
「お前は鬼だってんだろ!ここは鬼の入れない聖地なんだよッ!」
「えぇっ!?あーたそれは無いでしょうに!!」
「駄ー目だッ!鬼はあっち行け!!」
また豆を投げられそうになって、俺は仕方なくソファーを離れた。
クソーなんか悔しいな。
そう思った俺は、つま先で歩いて寝室へと向かった。
「お前、ドコ行くんだよ」
それを見かねたキリトが声を掛けてくる。
「そこはあーたの聖地なんでしょ?こっちは俺の聖地」
そう云って、俺は寝室のドアを閉めた。
さーてと、何分持つかなぁ。
寝室に入り、電気を付けずにベットに横になった。
ポケットに入れていた葉巻を出して、火をつける。
口内に煙を溜めて、ふぅっと吐き出すと同時に
寝室のドアが開いた。
1分も持たなかったな。
「なぁ」
「なぁに?」
「・・・・・・・・・」
「ココは鬼の俺の聖地だから、あーたは入れないんだけどなぁ」
ドアの向こうに立つキリトの手には相変わらず豆の袋が握られていた。
視線はさっきより幾分か下向き。
鬼退治しに来た人間とは思えない(笑)
「入れろよ」
「何で?」
「俺、寝れないじゃん」
「ソファーで寝ればいいんじゃない?あそこが聖地なんでしょ?」
「・・・・ソファーで寝たら疲れる」
「でもココは俺の聖地だから」
「・・・ムカツクお前」
「あーたが云い出したんじゃん」
「・・・・・・・」
視線が足元まで落とされた。
相当効いたかなこりゃ。
「豆、置いてくれるんなら入ってきてもいいけど?」
俺がポツリとそういうと、キリトはゆっくり顔を上げて、
足元に豆の入った袋を置いた。
「入るぞ」
「どうぞどうぞ」
ドアを閉めて、一直線にベットに向かってきたキリトは
ダイビングして俺に飛び込んでくる。
「うはッ!唐突だよあーたッ!」
「鬼退治しに来てやったんだよ」
「豆無いのに?」
「豆だけが武器だと思うなよ」
「へ?」
口角を上げて笑みを浮かべると
俺の服の中に手を滑り込ませてきた。
「ちょっとちょっと」
「何だよ」
「コレが武器なの?」
「そう」
「何?するの?」
「そう」
「じゃあ何か云ってよ(笑)」
「しよう」
「や、遅いからね(笑)」
一体何がしたいのやら判らないけど
とりあえずエッチしたいというキリトに
俺も乗ってしまう。
本当はもっとギリギリまで引っ張って
豆をぶちまけた反省をして貰おうと思ったんだけど
ドアの前でバツが悪そうに立っているあーたを見てて
何か可哀想になっちゃって。
この程度であーたのした事全部許しちゃうなんて
俺って甘すぎるんだろうか。
これじゃあキリトの云う、鬼畜鬼になんてなれやしない。
「これなーんだ」
キリトの白い首筋に唇を這わせていると
そんな声が聞こえてきた。
「どれ?」
俺がふと視線をやると、目の前に一粒の豆が。
「豆じゃん。持ってきてたの?」
「そう。これでお前を退治する」
「まだ云うのね(笑)」
「覚悟しろッ」
そう云って手に平に豆を乗せて、俺に向かって弾き飛ばそうとする。
勿論俺が黙って当てられるワケもなく
その豆をひょいと取り上げ食べてやった。
「うあー!食うな馬鹿ッ!」
「そう簡単に退治なんてさせないよ」
「ムカツクお前ッ」
「いーからもう黙って」
俺がそっと口付けようとすると
その唇に何かが押し付けられる。
「んぅ?」
何かと思ったら、また豆だった。
「まだまだあるんだからな。一粒だけだと思うなよ」
「あーた一体どれだけ豆持ってるの!?」
驚いて俺がそういうと
ニンマリ笑ってポケットに手を突っ込み引き出す。
その手には溢れんばかりの豆、豆、豆。
俺がそれを見て、血相を変えたのを見て
幾分ほくそえんだキリトは
「鬼はーーーー外ーーーーッッ!!!」
そう叫んでまた俺に豆をぶちまけるのだった。
■一言■
遅くなりましたが、節分小説ということで。
やっぱり節分と云えば豆巻きッ!なので兄やんが潤君宅に沢山豆をぶちまけるお話。
久し振りに短編書いた(笑)
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