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朝が来るのが怖かった。
Vanish
第4話:「崩壊」
「この痕付けた記憶がない」
記憶を辿れど、キリトの鎖骨に付けられた痕の記憶は無かった。
「何云って・・・お前が付けたんだろうが!」
「それはそうなんだろうけど・・・・でも本当に覚えてない」
「・・・昨日だぞ?」
「うん」
「エッチしただろうが車ん中でッ!」
「それは覚えてるよ。でもコレは・・・・知らない」
そっと鎖骨の痕に触れると、キリトがピクリと反応する。
くっきりと残る歯型、鬱血しているその部分。
目の前にあるものはは紛れも無い現実で
俺以外が付けるなんてありえない状況だしで、本当に俺が付けたんだろうけど
それを確かめる記憶が俺の中には無かった。
探せど探せど
そんな記憶はどこにもない。
忘れているのか?
それとも
始めから無かったのか。
「お前ッ・・・ちょっと酷くないか最近」
「・・・自分でも今思ってたとこ」
「一回や二回ならまだしも・・・ただの物忘れ程度じゃ云い切れない」
「・・・御免、先上がるね」
自分で感じていた不安を、他人に云われると更にそれは強くなる。
自分の中で考えていた事を、キリトが口にした瞬間に
俺の中は不安要素ではちきれそうになって
息の詰まる状況から抜け出したくて、俺は風呂を出た。
身体を拭いて、服に袖を通す。
本当に忘れているだけなのか
それとも、始めっからそんな記憶はないのか。
どうしてこんなにも記憶が欠落していくのか
俺にはサッパリ判らなかった。
何時からだ?
何時からこんな事に。
寧ろ、俺は今何を覚えている?
昨日1日自分がしてきた行動は事実なのか、
それとも作られた記憶なのか
作られる以前にそんなものありはしないのか。
今自分の思いつく範囲の記憶が段々曖昧になっていく事に
時間は必要なかった。
「少しは落ち着いた?」
「心配」を顔に書いたような表情で、キリトが俺にお茶を渡す。
風呂から出て、ソファーに座って早10分。
俺は何も云わずにただ煙草をふかしていた。
少ししてキリトが出てきて、俺に冷たいお茶を入れてくれる。
「ん・・有難う」
「本当に覚えてないのか?」
「・・・・・うん。全然覚えてない」
「・・・そっか」
俺の横に腰を下ろしたキリトの声もヤケに不安そうで、
そう思っているときゅっと俺の手が握られた。
「・・・・・・キリト?」
「なぁ、昨日車の中でやった後に、こうやって手繋いでたの覚えてる?」
そう突然云われて、曖昧な記憶を辿る。
恐ろしい事に
キリトの云う事に該当する記憶は無かった。
その事実に更に怖くなって、きゅっと握られたその手に力を込める。
「・・・覚えてない・・か」
「御免・・・」
「謝る事ないだろ」
「どうしてこんなに記憶が・・・」
「一時的なもんだって。大丈夫だからそんな不安そうな顔すんな」
この歳になって頭を撫でられるなんて思ってもみなかったけど
キリトに頭を撫でられて、多少なりと落ち着いたのは云うまでもなかった。
キリトの云うように、一時的なものなのだろうか。
そうだとしても、どうしようもないこの不安感は取り除かれなかった。
いつかあーたの事まで忘れてしまいそうで。
不安の余り、俺の隣に座るその身体を抱きしめた。
暖かいそのぬくもりは確かで、こうしていた事まで忘れたら・・・
考えれば考えるほど、恐ろしくなる。
あーたを忘れるぐらいなら
死んだ方がマシだ。
「大丈夫。もし、お前が俺を忘れても、また思い出させてやるから」
「うん・・・」
「思い出なんて・・また作ればいいだろ」
「ん・・」
「お前が忘れても俺は忘れない。またやり直せるから」
忘れてもまた作ればいい。
確かにその通りだった。
忘れてしまったら、また作り直せばいいだけの話。
でも俺には、忘れてしまう事自体が怖かった。
記憶をなくしてしまう事自体が。
あーたを忘れる日がいつか来るんじゃないかって。
***
不安とは
募れば募る程大きくなり
いつしかそれは
本人の意思とは関係なくして訪れる。
そして恐れていた事は
いとも簡単に訪れた。
翌朝目が覚めたキリトが見たのは
ただ呆然とベットに座る潤の姿。
色の無い瞳が見つめる先には何も無く。
声を掛けたキリトにただ一言だけ呟いた。
「あーた誰?」
■一言■
そんなわけで4話目です。
ついに記憶がッ!!!何か今回短いような気がする…。
次はもう少し長い目になるかと思われますハイ。
記憶の無くなった潤君。さぁどうなるッ!(エコー)
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