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あーたに付けた赤い印は
こっちへ戻ってくる唯一の鍵だった。
Vanish
第3話:「自覚」
「ッ・・・・はぁ・・・」
悪い夢を見た。
記憶が全部無くなる夢。
最初は明るかった周りの電球が
一つずつ一つずつ消えていって
大事な事をどんどん忘れていく。
大事な人の顔を忘れていって、思い出が消えていく。
あーたまで忘れそうになったところで目が覚めた。
「何ッ・・・て夢・・」
目が覚めたら、まだ部屋は暗くて
部屋の時計に目をやると、まだ4時過ぎだった。
隣には、キリトが規則的な寝息を立てている。
気付けば自分の着ているパジャマは汗で湿っていて
額にも汗が滲んでいた。
夢の内容を思い返すだけで、ヤケに怖くなって
俺はキリトの身体をそっと抱き締めた。
「っ・・・・・ぅうん」
きゅっと抱き締めると、眉間に皺を寄せて
キリトがうっすらその目を開けた。
「御免・・・起こした」
「ん・・・。何・・・?」
「ううん。何でもないよ」
「何でもなくないだろお前から抱きついてくるなんて・・・って・・・お前凄い汗かいてる」
「あー・・ちょっと、変な夢見て」
「怖くなった?」
「柄にもなくね」
「そか・・・よしよし」
「子供扱いかい(笑)」
キリトは俺に擦り寄ってくるとよしよしと背中を撫でた。
何だかそんな行動一つが凄い安心して
さっきまでの闇だとか怖さだとかが、ちょっと消えてきた気がした。
「何時・・・?」
「まだ4時過ぎ」
「眠い・・・・・お前も寝ろ」
「うん寝るよ」
「俺がいるから怖い夢みないだろうし」
「えらい自信だねそれ」
「あーお前馬鹿にしてんだろ」
「してないしてない」
「誰かに傍に居て貰って、心臓の音聞きながら寝たりすると怖い夢見ないんだぞ」
「そうなの?」
「俺が昔よくコータにしてやった」
「ぶっっ」
「何」
「いや・・・コータが怖い夢見て泣いてる姿が浮かんだから」
「アイツすげぇ泣くんだよ怖い夢見ると」
「ひゃー。何か暴露聞いてるみたいで面白い」
「まぁとりあえず、俺がいるから大丈夫。寝ろ」
「ん。有難う」
「はい、オヤスミ」
「オヤスミ」
俺が寝付くまで、キリトはずっと俺の背中を撫でてくれていた。
これじゃあ何時もと立場が逆だ。
なんて思ったけど、たまには甘えるのもいいかと思って。
キリトの優しい手も後押しして、案の定すぐに眠りに落ちた。
「ん・・・・」
次に目が覚めたら、今度は部屋が随分と明るかった。
今度は怖い夢なんて見なくて
寧ろ夢を見たかどうかすらなんて判らないぐらい深い眠りだった。
「あれ・・・キリト・・・?」
さっきまで傍に居たハズのキリトの姿は無かった。
時計は7時を指している。
こんな時間に帰るハズもないしなぁ。
なんて思ってると、リビングから食器の音が聞こえてきた。
あぁリビングか。
俺はベットを下りて、リビングへ向かった。
リビングには、キリトが鼻歌交じりにテーブルセッティングする姿があった。
「あーた・・・・何してんの」
「おう。おはよう」
「おはよ」
「たまには何かするかーっと思ってな。朝メシ作ってた」
「あーたがッ!?」
「何でそんな驚くんだよ」
「だだだだだって」
「何でどもるんだよ(怒)」
「だってあーたが朝ご飯作るとか今まで一回も無かったじゃん」
「だーからやってんだろ」
「うあー・・・雪でも降らなきゃいいけど・・・」
「ぁんだって?」
「いえ」
「先に風呂入って来いよ。まだ時間かかるし」
「あーい」
珍しい事もあるもんだと、俺はキッチンを抜けて風呂場に向かった。
驚く事に、湯船にはちゃーんと綺麗なお湯が張られていた。
「うあ・・・風呂まで入れてあるし」
こりゃいいお嫁さんになれるねー。
と思ったけど、どうせ毎日は続きゃしないんだろうなぁと思うと
何かおかしくて。
服を脱ぎながら笑ってたのは内緒。
身体を軽く流してから湯船に浸かる。
朝風呂もたまにはいいもんだなー。
「ふえー・・・気持ちい」
暫く浸かっていて、新しい石鹸を出し忘れた事に気付く。
取ってこようと立ち上がろうとした時、
風呂場のドアが開いた。
「そうだ石鹸」
「うおっ」
「石鹸なかっただろ?ハイ」
ドアからひょっこり顔を出したのは云うまでもなくキリトで
その手には真新しい石鹸が。
ってか何でそんな事まで知ってんの。
すでに誰の家だかわかりゃしない。
「あ、ありがと」
「おう」
「あー待って待って」
「んぁ?」
「あーたも入ろ」
「えー俺だってメシの準備あるし」
「いーから。後ででいいからお風呂入ろ。お湯冷めちゃう前に」
「・・・・・エッチはしないからな」
「いや誰もんな事云ってないからね(笑)」
「じゃあ入る」
そう云って一旦ドアを閉めた。
曇りガラスの向こうでちらつくあーたの影。
暫くして、ドアが開きキリトが入ってくる。
掛け湯をしてから俺の居ない場所へと足を入れて入ってきた。
男二人には多少狭い湯船だけど、まぁキリトちっちゃいし十分。
お湯も沢山張られてたから、幾分か流れちゃったけど
その分嵩が増えたから大丈夫。
「あー気持ちいい」
「でしょ?」
「うん気持ちいい」
「こっちきてこっち」
俺はキリトの身体を引き寄せて、自分の足の間に座らせた。
身体は自分に預けさせて。
腰に手を回して肩に顔を埋めると、首がイヤイヤと振られた。
「エッチしないって云った」
「しないよ。こうしたいだけ」
「んな事云っていつもすんだろお前」
「しないって。それとも何?したいの?」
「違うッ!馬鹿ッ!」
べしっと頭を叩かれる。
だってさ、そんなエッチエッチって云うからしたいのかと思って。
別にそんなつもりじゃないのにさ。
それでもピンクに色づき始めたキリトの肌とか見てると
何となくそういう気持ちになってくるのは嘘じゃなくて
つい、いつもの調子で首筋にキスをした。
痕を残すように。
「潤っ」
「これ以上はしないって」
「絶対だぞ」
「ん」
なーんて云っては見たけど、そんな自信は無かったりね(苦笑)
首筋にキスをしている間に、腰に回した手はするするとキリトの胸元にあって
その胸をやんわりとなで始めていた。
「云ってる事とやってる事が違うッ」
「これ以上はしませんってば」
「お前それ絶対嘘だッ!離せッ!!」
「やだ。離さない」
首筋には今付けた痕の他にもいくつかあった。
「あれ・・・?」
「ん?」
目についたのは
一際目立つ鎖骨の痕。
鬱血して歯形の残るものがポツンと一つ。
闇とは
「これ」
「あぁお前が噛んだ痕だろ」
「噛んだ?」
「そう。昨日車ん中でヤった時に」
「昨日・・?」
「・・・・まさか」
「いや覚えてる覚えてる。車でヤったのは覚えてるよ」
「あぁじゃあ何」
忘れた頃に訪れては
俺の記憶をどんどんと蝕んでいく。
「俺覚えてない・・・」
「だから何を」
どうして昨日の事が思い出せないんだろう。
「この痕、付けた記憶がない」
蝕まれた記憶は
どこへ行ってしまうのだろう。
■一言■
いよいよ物忘れが酷くなってきました(違)
このお話は記憶が蝕まれていくお話なのですが、今回は夢にまでそれが出てきて
自分でいよいよそれを自覚し始めるところです。
これからね、少しずつ潤君が変わっていくのです。
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