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空から来たのか
ドコから来たかも判らない
あーたを
俺は必要だと思った。
■■■THE TRUTH■■■
第1章:「満月の夜」
ある日俺は、死神を拾った。
「とりあえずまぁ・・・ドウゾ」
「あ・・うん」
ガラスのテーブルにコトリと置かれたマグカップ。
中には暖かいココア。
寒い部屋に白い湯気が立ち込める。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・」
マグカップを差し出して、2分後ぐらい。
貴方はそれをゆっくり手に取って、おずおずと口をつけた。
あ。猫舌なんだ。
マグカップの中身に視線を落とす事無く、ただ床だけをぼぉっと見てて
たまにココアを口に含みかけては、その熱さにふぅふぅと息を掛ける。
その様子をじぃっと見てたら、ふいに目が合った。
「なに・・?」
「いや・・・・・・・何でもない」
気の利いた言葉は出てこない。
視線を逸らして見るものの、結局は目の前の貴方に舞い戻る。
その度にバチッと目が合う。
「何かついてる・・?」
「いや・・何も」
「じゃあ・・・何で俺を見るんだよ・・・?」
「・・・その・・ただ・・・・」
「「どこから来たんだろうと思って」?」
「っえ」
「・・・・・・・・・・」
偶然・・・だろうか。
頭に浮かべた言葉を口に出したら、貴方とその言葉はシンクロした。
狙ったかのように。
一瞬驚きはしたものの、貴方も気に止めた様子もなく
こくこくとココアを飲み続ける。
偶然か・・・。
「・・・・そんなにどこから来たか気になる?」
「・・・あ・・うんまぁ。でも・・嫌なら別に云わなくても・・・」
「ジゴク」
「ぅえ?・・・地獄って・・何云って」
「嘘じゃないよ。俺は死神だ」
今でも忘れない。
それがあーたとの最初の出会い。
「死神って・・・地獄って・・・んなわけ」
「あるよ。俺は死神だから」
「だから何を根拠に・・・」
「数字をさ。思い浮かべてよ。幾つでも構わないから」
「え?数字?」
「そ。何でもイイから早く」
「あ・・・うん」
俺は浮かべた。
思いつくままの数字を。
8979、656745674、83989、53232、1212・・・
「8979、656745674、83989、53232、1212・・・?」
信じられなかった。
視線は床から離さない。
手にはマグカップ。
口は・・・俺の思考を読み上げて。
脳は・・・俺の思考を読み取っていた。
「どう・・・して」
「だから、云ってんだろ」
「死神・・・だから」
「そ」
「「そんなワケないだろ、死神だなんて」?」
「お前の思考は、丸見えだよ」
俺の手からゴトリとマグカップが落ちた。
***
最初のその出会いから、月日は流れて半年。
道端で拾った死神は、俺の家に住み着いた。
一体何者なのかも判らない死神を、どうして家に入れたのか判らない。
ただ拾ってきたその日から、すでに呪縛に掛かっていた事は
事実。
名前しか聞かなかった。
後から考えたら、どこから来たかなんて聞いても仕方ないと思って。
本人は地獄から来たというし、これ以上聞いても無駄だと思ったから。
「名前・・何ていうの?」
「・・・・名前?」
「そう。俺はー、潤っていうんだけど。名前ないと呼べないじゃない」
「・・・キリト」
「キリト?そう呼んで構わない?」
「いいよ」
「俺の事は潤でいいから」
「ん」
キリトと名乗った死神は、何も話そうとも語ろうともしなかった。
必要最低限しか聞かないし、必要最低限しか話さなかった。
TVを見る俺の横で、ちょこんと座ってはただぼーっとしているだけで
朝が来たら眠って、夜が来たら起きた。
死神は、夜が主な活動時間らしく、朝も昼も起きていられるものの
夜の方が好きだと、明るい時間は好まなかった。
それから
歯車が狂ったのは何時だったろう。
「俺の事・・・どう思う?」
「え?」
「なぁ」
「ど・・どーしたのあーた」
「どう思うか・・・聞いてるだけ」
それは雨の夜だった。
寝ようとリビングで部屋の窓を閉めていた時。
ソファーに座ったキリトはそう俺に切り出した。
「どう思うって・・・・」
「死神なのはおかしい?」
「・・・何を今更・・・あーたがそう云ったんでしょ」
「・・・・・俺が死神なの、信じてる?」
「・・えぇまぁ」
そう答えた俺の目をじぃっと見つめて、何かを確認した後
視線を床へと落とした。
読んだな。思考を。
読まれても困る事は無い。
そりゃ最初は驚いたけど、今では別に死神だろうがなんでも構わないと思ってるから。
だからあーたが死神だと云うのなら、そうなんだろうと思ってた。
「そっか・・・じゃあ俺がジゴクから来たってのは?」
「それもまぁ信じてるよ」
そしてまたじぃっと俺を見る。
その後視線は床へ。
そんなイチイチ読まなくたって。
「じゃあ・・・・俺がお前を殺しに来たって云ったら?」
その瞬間、床への視線は俺へと向けられた。
漆黒の瞳。
見つめていたら吸い込まれそうな程深い。
ブラックホールのようなその瞳は
かすかに震えていた。
「どう・・いうこと」
「俺は・・・・・お前を殺す為にココに来たんだ」
二度目のその言葉にも震えは残っていた。
「殺すって・・・それどういうこと・・・?俺を殺す?あーたが?」
「俺は・・死神だから・・・人を殺す・・死に招く事が仕事なんだ・・・」
「・・・・・死に招く・・」
「お前は本当は去年の2月12日に死ぬ予定だったんだ・・・リストでは」
去年の・・2月12日・・・
俺、何してた?
「でも、偶々生き残った。時間とかの狂いでたまにあることなんだ・・・」
「偶々って・・・」
「そういうリストから漏れた人間を殺すのが俺の仕事・・・死神の仕事だよ」
死ぬ予定だった人間が、リスト通りに死ななかった。
そのリスト漏れした人間を、殺すが死神の仕事。
話を整理すれば、判らない話でもない。
でも
理解は出来ない。
「悪い・・けどそれは信じられない」
整理しているようで出来ていない俺の脳。
ゴチャゴチャの思考回路の中で、ようやく口に出来た言葉。
そう言い放った俺の思考を読んだそぶりを見せたキリトは
小さくため息をついた。
「それでも俺は・・・お前を殺さなきゃいけない」
すぅっと息を吸って、それだけ言い放つと
キリトは俺の横をすり抜けてベッドルームへと入っていった。
***
そんな事があってから、また半年。
何の変哲も無い夜が今日もやってくる。
今夜は満月だった。
いつものように、一つしかないシングルベッドに二人で横になっていた。
距離は・・・いつもと同じだった。
ベッドの両端により近くなるように、二人が触れ合わないように
お互いなるべく両端へ避けて眠っていた。
夜が好きだと云ったあーたは、珍しく日付が変わっても起きようとはしなかった。
いつもなら、この時間はリビングの窓から月ばかりを見ているはずなのに。
どういうわけか眠れないでいた俺は、冴えた目でぼぉっと暗い天井を見つめていた。
ベッド上の窓から満月の光が差し込む。
左を向けば、漆黒の髪が見えた。
その身体は規則的に寝息で上下する。
手を伸ばせば
その髪に触れることも出来た。
漆黒のその髪にどうしても触れたくなる時が、今までにも何度かあった。
この指に絡めてみたいと思った。
それでも俺は幾度と無くその意思を押さえつけてきた。
触れてしまってはならない逆鱗。
越えてはならない一線。
いつもなら、留まったハズの手は
留まる事を知らなかった。
きっと満月の所為だろう。
俺の気持ちをこんなにも高ぶらせる。
押さえが利かない夜は、
あーたがいなければと思った。
するりと指に触れた髪は、思ったよりも柔らかくてしなやかだった。
指にさらりと絡み付いて、すっと梳かすとどこにも引っ掛かる事無く指はすり抜けた。
こんなに心地いい髪を触った事はあったろうか。
女の髪より柔らかい。
触っていて気持ちよさまで感じる。
いつしかそれが
愛おしさに変わっていた事を、俺は核心していただろうか。
「っぅ・・・」
キリトが反応した。
向けていた背をくるりと翻し、俺に顔を向ける。
その眉間には深いシワ。
そんなに嫌だった?
暫く何もせずに見ていると、何時しかそのシワも浅くなり
見えなくなった。
それを見計らって、今度は前髪に指を絡めた。
後ろよりも柔らかい髪。
髪だけでは抑え切れない感情は、何時しか前へ前へと進みだす。
指の背でするすると頬をなぞると、くすぐったそうにまた眉をしかめる。
そのままやんわり頭を撫でると、今度はしかめた眉を解いてマクラに深く頭を沈めた。
「キリト・・・」
ポツリとつぶやいた言葉に、キリトの瞼がピクリと反応した。
すぐさま手を引っ込めると、その瞬間にゆっくりと漆黒の瞳が俺を捕らえた。
ぼぉっと俺を眺めた後、何度か目をこすり、モゾモゾと布団の位置を確認し
「何・・・」
とだけ呟いた。
「なっ・・なにが?」
思わず声が裏返る。
「呼んだろ・・・さっき・・」
「聞こえ・・・てたの・・?」
「・・・ん・・・」
「起きてた・・・?」
「寝てたよ・・ただ・・・声が聞こえたから」
何かがドクリと動いた気がした。
「・・・思考の・・声?」
「・・・・・・ううん・・・その声」
「・・・・キリト・・・」
「何・・?」
拒まれる事を承知で手を伸ばすと
いとも簡単に手は黒髪へと辿り着く。
やんわりとまた頭を撫でると、きゅっとその目を閉じた。
「・・・嫌・・・じゃないの?」
「・・気持ちい・・さっきもこうしてくれてたんだろ?」
「あーたやっぱり起きてたんじゃ・・」
「違うよ・・・・寝てた」
暫く黒髪を撫でた所で、俺は賭けに出た。
拒まれたならそれでいいと。そう思った。
伝えられないでいるよりは、ずっと楽だと判断したから。
「読んで・・・俺の頭の中」
「え・・?」
「俺の考えてる事・・・・読んで」
そう云われて、戸惑いながらもキリトは俺と視線を合わせた。
今読まれている最中だろうか。
もう読み終わったろうか。
それとも呆れて言葉も無いのだろうか。
ぱっと視線を外し、俺に背を向けるキリトの姿に
賭けに負けたんだと確信した。
そりゃそうだ。
勝てる確率なんて、皆無だった。
「俺は・・・」
消えそうな声がした。
耳を傾けると、それは背を向けているキリトからで。
「・・・・俺は死神だよ・・・お前を殺すために居るんだ」
「知ってる・・・」
「お前は・・・人間で・・・俺に殺される立場なんだ」
「ん・・判ってる・・・」
「なのに・・・どうしてそんな・・・」
「あーたに・・・触れたいと思ったんだ・・・」
「っ」
「その髪に、その顔に、その背中に・・・触れたいと思ったんだよ」
「・・やめろよ!・・・・・・そんな事許されないっ」
「判ってるよっ・・・それでも・・・そうしたいと思ったんだ」
あーたが好きだなんて
許されることじゃないことぐらい
100も承知。
それでも
この息苦しさから、抜け出したかったんだ。
続く
■一言■
パラレルとお兄ちゃんが死神だってのを書きたくて書きはじめたお話です。
一応続き物ですのでまだまだ続きます。
他のメンバーも出ます!
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