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潰れたイチゴ。
腐ったリンゴ。
それに手を差し伸べるのは?
Jealous
最終話:「籠」
<SIDE 潤>
キリトがアイジを追い掛けて部屋を出て行って3分。
俺しかいない部屋は不気味なぐらい静かだった。
ココがアイジんちだって事をさておき
俺はソファーに身体を横たえた。
難無く身体が沈む。
スプリングがきしんで音が鳴った。
ぼーっとキリトの持ってきたマグカップに視線をやって、
でも考えてる事は全然違う事で。
容易にアイジを追いかけさせたけど
気持ちのどっかで、帰って来ないんじゃないかと思ってた。
そのままアイジのモノになったって
全然おかしくない状況。
もし
もう俺の元にキリトが戻って来なかったら?
ふっと頭を過ぎった考えに
身体が小刻みに震えた。
自分が突きつけた別れの言葉が
今になってどれだけ恐ろしい物か理解出来た気がした。
俺はこんな恐ろしい事をしてたのかって。
あーたが居ない今の状況が
震えるぐらい怖いなんて。
本当、数日前の自分が馬鹿だと思う。
それもこれも全部
俺の馬鹿な考えを飲まないで
俺を信じてくれてたあーたのおかげ。
暗い闇に一人で向かおうとした俺を
あーたが引き止めてくれた。
本当感謝しなきゃ。
身体を仰向けにさせて、白い天井に視線をやった。
悲しいぐらいに白い天井。
何にも汚されてない。
それを見てたら
何だか目頭が熱くなって、視界が霞んできた。
「あー・・・涙出そう」
何で泣かなきゃいけないのか判らない。
何で涙が出たのかも判らない。
ただ、
あーたの事考えて
自分の事をこんなにも考えてくれてる人がいるのだと判ったら
愛しくて愛しくて
こみ上げてきた物が涙になっただけの事。
愛しいと思う気持ちが、頬を伝うだけの事。
「・・・・・あぁそっか」
頬に暖かい涙が伝って
ようやくあーたの云ってた事が判った気がした。
『お前が好きで泣くんだよ』
その言葉の意味は、云われた時には理解出来なくて
別に悲しくもないのにどうして泣かなきゃいけないんだって思った。
好きだからって泣く必要なんてないじゃないかって。
でも今になってやっと理解出来た気がする。
事実ココに、あーたが好きで泣いてる俺が居たから。
「ヤバイ。止まらない・・・」
云ってた事が理解出来ると
その後云われていた事とか、あーたの気持ちとかが全部流れ込んでくるようで
全然涙は止まらなかった。
今なら目を閉じて何を思う?
自分を愛しいと云い、自分も相手を愛しいと思う。
その時に
俺はあーたに何を思うだろう。
「好きだ・・・・大好きだよあーたが・・」
ポツリと出た言葉は
今までの言葉のどれよりもきっと純で
コイツを忘れてはいけないと思った。
それが今の俺の一番素直な気持ちだった。
人を好きになるって事が
こんなにも凄い事だって今更気付いて
俺ってつくづく駄目な人間。
でもこれからはもっと、素直にあーたを大切に出来る自信が出来た。
やっぱり好きだ。
そうしていると、玄関先で声が聞こえてきた。
その声は、
何時もの楽屋で聞くものと何一つ変わりは無くて
あーだこーだと二人で云い合いしながらリビングに入ってきた。
俺は悟られないように涙を拭いて、身体をソファーから起こした。
「お帰り」
「あっお前ー!俺が寒い中に居たってのに何一人でくつろいでんだよッ!」
「え?あー・・いやソファー気持ちよくてつい・・・」
「潤じゅーん!だろだろ!?そのソファーダントツ気持ちイイんだって!」
二人が俺に掛ける言葉は恐ろしいぐらい何時もと同じで
今の一瞬の間に何があったんだと思うぐらいだった。
あーた何したの一体。
「あのなぁアイジ。俺は気持ちイイよくないの話してんじゃねぇの」
「えー?だって本気気持ちイイんだってアレー」
キリトに突っ込まれてアイジが首をかしげる。
ってかさ、さっきまでの険悪ムードとかどうしたの?
「だーからそれはどうでもいいの!俺はコイツが一人でぬくぬくとしてた事にだなぁッ!」
「でも本当気持ちイイんだってばー!ちょっとキリトも横んなってみろよー!」
「ってお前は人の話を聴け(怒)」
「潤じゅんちょっと詰めてー。マジ気持ちよくねぇ?コレ」
アイジはキリトをスルー・・・いや多分本気で聞いてないのだろうけど・・・
キリトの話を聞き流すと、俺の横にボスンと腰を下ろす。
そして、何もつっかえなく俺に意見を求めた。
「え?あ、うん。気持ちイイ」
「キリトん中とドッチのが?」
「ッ馬鹿お前ッッ!!!」
ソファーを撫でてて俺がそう云うと、アイジはにんまり笑ってそう云った。
小声だったものの、勿論すぐ傍に居る本人には筒抜け。
キリトの顔は見る見る赤くなった。
「お前ヤったんなら判るだろ?俺に聞かなくても」
「さぁねー。俺は潤じゅんに聞いてんだけどなー」
「何だそれ(笑)まぁね、ソファーもイイけどやっぱりキリトの中のが・・・」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れーーーーーーーいッッ!!!」
「いたたたたたたたたたたたッ」
調子に乗って答えたら、思いっきり両耳を掴まれて引っ張られる。
勿論容赦なんてない。
それをアイジはお腹を抱えて笑っていた。
「お前、笑ってる場合じゃないぞ」
「へ?」
俺の言葉にアイジがふと我に帰ると
目の前には鬼の形相のキリト。
「痛い痛い痛い痛い痛いーーーー!!!!」
「自業自得だ馬鹿ッッッ!!!!」
勿論云い出したアイジも同じ目にあった。
それから3人で全然どうでもいいような話をして、
キリトが眠たいと云い出し、さっきの話は??
と思う俺をよそ寝室に入って行ってしまった。
でも、今度はそれを追って寝室に向かうアイジに腕を掴まれていて
一人、蚊帳の外じゃなかった。
「俺はもう寝るッ」
服のまま、キリトはボフンとベットに身を横たえる。
それを見てアイジもベットに飛び込んだ。
俺の腕を掴んだまま。
だから必然的に俺もベットに飛び込まざるを得なくて
結局キングサイズとは云え、男3人には狭いベットに
そのまま3人で寝ることになった。
並びは勿論アイジ、キリト、俺。
キリトを間に挟むのは誰が云い出したわけでもなく
キリトが勝手に自分で真ん中に移動したのだ。
動こうとしないので、二人でそれを挟む形になった。
キリトは仰向けに寝てて、俺とアイジがキリトに向き合った。
部屋の電気は消えてたけど
窓から差し込む月明かりで十分視界はよかった。
「何か変な感じー。俺のベットなのに」
「お前のベットは俺のベットだ」
「あーたそれジャイアニズムって云うの知ってた?」
そんなどうでもいい話がまた少し続いてから
俺の手がキリトに握られた。
「あーた、手冷たい」
「うあッ!キリト手ぇ冷たッ!!」
「お前も繋いでんのかよ(笑)」
右手にはアイジの手、左手には俺の手を握って
キリトは目を閉じていた。
何も云わなかったけど、伝わってくるものは一杯あった。
「潤じゅーん」
キリトを隔てて向こう側からアイジの声。
こっからはアイジの髪しか見えない。
「んあ?」
「何その返事」
「いーから何だよ(笑)」
「あー・・・いやなんつーか」
「何?」
「いやほらさー・・・だからさー・・・あれだよほらー」
「何?」
「御免」
その言葉に耳を疑ったのは云うまでもなくて
でも、何かくすぐったくて
「ううん・・・俺こそ御免」
って小さく返事をするしかなかった。
そんな俺たちのやり取りに、キリトの口許がちょっと緩んでいたのは
後で知ったこと。
「後」
「ん?」
「もう喧嘩すんなよ。マジムカツクから」
「うん判ってるよ」
「お前ホントに判ってんのかなぁ。俺心配」
「お前に心配されたくねぇ(笑)」
「次キリトに酷い事云ったら、今度はホントに許さないよ俺」
「判ってるよ。有難うアイジ」
あぁ
何でこんなにも素直に口から言葉が出るのかと思ったら
きっとキリトと手繋いでるからだ。
それは多分、アイジも同じ事だと思う。
スラスラ口から出る言葉に、もう不純物とかなくて
全部純なものだってお互いに判ってるから
これだけの言葉で理解出来て納得出来るんだ。
話の間も、キリトは手をにぎにぎしてて
それはきっとアイジ側の手も同じ事で
そんなちっこい行動一つが益々愛しいと思った。
潰れたイチゴのような傷ついた感情とか
腐ったリンゴのように物事を理解出来ない思考回路だとか
そんなのを全部纏めるのは、籠だって思った。
その籠は、元々果物を納める籠で
潰れないように、腐らないように見張っててくれる場所。
感情が傷つかないように。
物事をキチンと理解出来るように。
そうさせてくれる存在は何時も一つで、
そのイチゴやリンゴを纏める籠はあーただ。
自分の近くにこんなにも大事な存在があるって事を
身を持って痛感した。
今目をつぶって、夢の中に落ちて
朝になって目が覚めたら
また何時もと何一つ変わらない日常が始まる。
目が覚めたら何を云おう。
とりあえず二人におはようを云ってから
もう一度有難うと云いたい。
きっと、
簡単に云えるハズだから。
「オヤスミ。潤」
「潤じゅん、オヤスミ」
頭を2回ずつ撫でられて
もう目を開けてそれを確認すら出来なくて
俺は眠りに落ちる。
心地いいこの二人の横で。
次に来る、朝を待つ。
■一言■
これで一応オシマイと云う形になります。
途中どうなる事かと、書き手ながらハラハラしたのですが何とかまとまりついてホッ。
「Jealous」は本当沢山の方に支持頂いていて、書き始めた時はまさかここまでとは思いませんでした。
でも自分の書いた作品の続きを楽しみにして下さっている方々がいる事で
最後まで仕上げる事が出来たと思います。
有難う御座いました。
ちなみに、番外編・・・多分書きます(笑)
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