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問題が片付いた所で
それはそれ。
癒えない傷なんて
幾らでもあるんだ。
Jealous
第8話:「潰れたイチゴ」
<SIDE 潤>
仕事を終えて、気が付いたらキリトとアイジは仕組んだように居なかった。
あぁ本当に行ったんだと思って、でも幾分か前よりは余裕を持って俺は後を追った。
迎えに来いと云われて、ドコに?と聴いたらテメェで考えろと云われた。
でもその数秒後にそう云った本人が答えを吐いた。
しかも本人はそれに気付いていない。
それを思い出して、車を走らせる俺は笑いをこみ上げた。
馬鹿だよなぁ本当に。
自分で場所云っちゃうなんて。
でも
もっと馬鹿は
ピンポーンッ。
もっと馬鹿は俺だ。
チャイムを鳴らしたら、これまた仕組んだようにあーたが出てくる。
「あがれよ」
「ここあーたんちじゃないじゃん」
「いーからあがれ」
「アイジは?」
「お前が来るって聴いたら居たくないからって出てった」
「出てった?」
「コンビニかどっかだろどうせ。クソ寒いのに慌ててサンダルで出てったから」
冬にサンダルでぇ?
どんだけ俺嫌われてんだ。
とりあえず俺はお邪魔しますと敷居を跨ぎ、家に上がる。
リビングのソファーに腰を下ろして、たまたま付いてたTVに眼をやった。
当たり前のようにキッチンで暖かい飲み物を準備するキリトの姿がチラチラ見える。
偉く慣れたもんだなぁと思う。
まぁそれも俺の所為か。
面白くもなんともないTVに眼をやって、そんな考え事をしていると
コトリと前に紅茶が出された。
「どうぞ」
「あどうも。って・・・あーた人妻みたいだよ何か(笑)」
「ご飯になさいますかー?お風呂になさいますかー?ってか?」
「そうそう」
「ってそうじゃねぇだろ馬鹿潤」
「自分でのっといて(笑)」
「お前は何しに来たんだよ」
キリトはブツッとTVの電源を切り、無造作にチャンネルを放り投げる。
カツンっとプラスチックの音がして床に転がるチャンネル。
あーたはそのままソファーに腰を下ろして、自分の紅茶に口をつけた。
「何しにって・・・あーたを迎えに」
「ふぅん」
「ふぅんって」
「迎えにって事は、俺の云ったこと理解してくれたんだ?」
「理解?」
「そう。お前全然俺の気持ち判ってねぇだろ」
「判ってるつもりだよ」
「判ってない」
「判ってるよ」
「判ってるなら、別れるなんて云い出すか?普通」
「でも・・あれは」
「俺の涙を見たくない為の別れだったんだろ?ようするに逃げたんだろ?」
「・・・・・・何が云いたいのあーた」
「俺は、戻りたいだけだ。お前と別れたくなんてない」
俺はてっきり別れたもんだと思っていた。
あんな酷い云い方をして別れを告げた俺とあーたとは別れたんだと。
でもあーたの云い方だと、
「別れたじゃんこないだ」
「それはお前の勝手な価値観だ。俺は別れるなんて一言も云ってないからな」
まだ別れていないと。
「他の理由でなら、もう少し俺だった考えたかもしれない。でもお前の理由は理不尽だ」
「あーた・・価値観だの理不尽だのって」
「泣くとこ見たくないなら泣かせるような事しなきゃいいだろ。何で別れるんだよ」
「それはッ・・・」
「俺はお前と居て幸せだから泣くの。それとも何か?嬉し涙も駄目なのかよ」
サラサラと口から出る言葉は俺の心を壁へ壁へと追い詰める。
云われてみればその通りだった。
だから云い返せない。
あーたを泣かせているのは俺だし、俺の為に泣いてくれてるのも判ってた。
だから尚更
「だから尚更泣かせたくないって・・」
「だからもクソもない。泣かせたくないなら泣かないように見張っとけよ」
もう何も云い訳出来なくて
俺は暖かいマグカップを手にしたまま、俯くしかなかった。
僅かな振動で揺れる紅茶の水面。
俺の同様に揺れる眼が映る。
「結局。お前はどうなの?」
「・・・え?」
ふいに声を掛けられて、一歩遅れて返事をする。
「本当に俺と別れたいの?もうヤなの?この関係を続けるのが」
そうだ。
結局の所俺はどうしたいんだろう。
泣かせたくないと思う一心で、好きという気持ちを押し殺して別れを告げた。
じゃあ泣かせたくない一心を取り除いたら
どうするべきか。
「それでもまだ別れるって云うなら、もう何も云わないけど・・」
キリトはそう云って空になったマグカップをテーブルに置く。
「どうしたい?」
「・・・俺は」
「別れたくない」
元々別れたくなんてなかった。
でも泣いて悲しむあーたを見ていられなくて、
苦汁を飲んで別れを告げたんだ。
じゃあその苦汁を飲む必要が無くなったら?
別れる必要性なんてドコにも無い。
別れたくなんて無い。
「俺も」
キリトはそう云うと俺の横に腰掛けて、俺の手からマグカップを取りテーブルへ戻す。
「別れたくなんてない。だって俺お前が好きだもん。別れてなんてやらない」
そう云ってキリトは俺にそっと口付けた。
「っ・・」
互いの唇がそっと触れて、俺はキリトの肩を掴んでそっと引き離した。
その行動にキリトが眉間に皺を寄せる。
「何で離すんだよ」
「ッ・・・だってなんか」
何かすぐにキスしてどうこうってのもと思って。
「何かって何だよ。それとも何かぁ?俺とのキスが嫌だと?」
「違うってそうじゃないよ」
「じゃあ大人しくキスさせろ馬鹿」
再度顔が近付いて、また口付けられた。
今度は深く、舌を絡めてくる。
それに今度は答えて腰を抱いた。
俺の上着を片手で掴んで、もう片方は肩に置かれて
角度を変えて何度も口付けてくる。
いい加減苦しくなってきたところで、離れようとするのを引き寄せて
もう一回口付けたら、頭を派手にどつかれて俺は名残惜しそうに身体を離した。
「お前が調子に乗るな」
ポスンっと俺の横に座りなおしたキリトは、俺の肩に頭を乗せて持たれかかってくる。
「あ、思い出した」
その時思い出した。
「何を?」
「あーたさ、アイジに抱かれたの?」
「ッ!」
それを聴くとキリトの顔は見る見る赤くなる。
「あの日、抱かれたの?」
「っさい!!もうそれはいいのッ!!」
「よくない。抱かれたの?」
向かい側のソファーに逃げようとする腕を掴んで引き止めた。
すっかり忘れてたその事。
「どーでもいいだろッ!あん時の事は!」
「全然よくない。何でもかんでもどーでもいいって云わないの」
「いーのッ!」
「どっち?抱かれたの?それとも添い寝してただけ?」
あ、でも確かあん時・・・・。
「んなワケないよね?あーた裸だったし」
「ッ!」
「怒らないから云って。抱かれたの?」
「・・・・・・ぅ・・・」
云い逃れなんて出来やしない。
事実諸事情の後って場面に俺が踏み込んでるんだから。
観念したのか、キリトは小さく1回頷いた。
「やっぱり。何回したの?」
「何でんな事まで!」
「いーから云って」
「ッ・・・ムカツクお前・・・・」
「早く」
「・・・・・3・・回」
「3回?3回イかされたって事?」
「恥ずかしいから云うな馬鹿ッッ!!!!」
俺は顔を真っ赤にしたキリトに傍にあったクッションで顔を殴られた。
3回って・・・しっかりヤられちゃってんじゃんあーた。
「でもまぁ仕方ないか・・・悪いのは俺だし」
ぽんぽんとキリトの頭を撫でて、俺はその身体を抱きしめた。
「御免ね。色々」
「ん」
抱きしめて髪に顔を埋めたら何だか懐かしい匂いがして
泣くなと云った俺のが泣きそうだった。
「もう別れるなんて云わないから」
「ったり前だ馬鹿。次云ったらぶっ殺すからな」
「うん」
「本当御免」
崩れたお城は、また建て直せばいい。
壊れた玩具も、また直せば十分使えるだろう。
一度崩れた関係は、崩れる前からしっかりした物なら
一度や二度の荒波で完全に崩れたりはしない。
小さな揉め事も、笑って過ごせる日が来て
大きな揉め事は、二人でやり過ごせる日が来るんだ。
でも
崩れたお城は直せても
壊れた玩具を直せても
潰れたイチゴだけは
元に戻すのは無理だった。
傷ついた心は
まさに潰れたイチゴ。
「俺は許さないから」
部屋に声が響いて俺とキリトはリビングのドアへと眼をやる。
そこには
ただ呆然と俺たち二人を見据えるアイジの姿があった。
「アイ・・・ジ」
「キリトをあれだけ傷つけた潤君を、キリトが許したって俺は許さない」
潰れたイチゴは
腐ったイチゴも同然。
食べる事も出来なければ
元に戻す事も出来ない。
傷ついた心は、直す事も出来なれば
元に戻す事だって出来ない。
「俺は潤君を許さない」
潰れたイチゴは
どうすればいい?
■一言■
一応これで潤君と兄やんはヨリが戻った事になるんですが…。
問題がいつの間にかアイジにまで飛火していて、今度はアイジが問題に。
というか寧ろこれが目的です(コラ)
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