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迎えに来い。
Jealous
第7話:「理由」
<SIDE キリト>
目が覚めたら、横にはアイジが寝てて
潤の姿はなかった。
潤がこの部屋に来た事自体が夢なんじゃないかって思わせるぐらい
アイツが居た空気がなくて。
何時までもそんなまどろみに浸っていたら
おかしくなりそうだったから、俺はアイジを置いて
先に家を出た。
仕事場にはまだスタッフしか居なくて
お早い俺の到着に皆が眼を丸くした。
でも特に誰かと喋るわけでもなく
俺はソファーに腰を下ろして、煙草に火をつけた。
視線を天井に向けて、泳がせている間に眠気が襲ってきて
つけたばっかりの煙草を落として、俺は眠りについた。
「・・・・ト。・・・・キ・・・リト」
「・・・」
「キリトッ」
身体を揺さぶられながら誰かに呼ばれて
俺は重たい瞼をゆっくり開けた。
そこには、潤の顔があった。
「あーたこんなトコで寝てどうしたの?」
何時もと何一つ変わらない潤の態度。
「出番まだ先だけど、早めに起こしといた方がいいかと思って」
身体を起こす俺に潤はひんやり冷えたお茶を手渡す。
それを受け取り胃に流し込むと、パッチリ眼が覚めた。
「まだ眠たい?」
首を横に振ると、「そう?」とにんまり笑って見せる。
「どうしたの?喋ってくれないの?」
潤は俺の顔を覗きこんでそう云う。
別に、そういうワケじゃない。
喋りたくないんじゃなくて
「・・・・俺とは喋りたくなくて当たり前か。御免」
そう云ってその場を立とうとするのを
俺が服を掴んで静止した。
「ん?」
「・・・・・ッ・・」
「なぁに?どうしたの?」
服を掴んでただ首を振るしかない俺に
「・・・・あーた・・・もしかして・・」
潤は首にそっと手を添える。
「ッぅ・・・」
「・・・・あーたもしかして喋れないの?」
「ッ!」
「・・・・・そうなんでしょ?」
声が出ないのは事実だった。
朝起きて声が出ない事に気が付いた。
騒ぎになるのは眼に見えていた。
メジャーを張るバンドのヴォーカルの声が出ないなんて
大事になるに決まってる。
とりあえず様子を見ようと誰にも云わないで居たんだ。
理由は
検討が付いていたから。
「俺が・・・あんなコト云ったから・・・」
潤の言葉にも俯くしかない。
理由はそれしか考えられなかったから。
付きつけられた言葉に、余裕はあると思っていたのに
身体はそうもいかなくて。
反動が声帯に出たんだ。
「今朝から・・?」
潤は俺の首を優しく撫でて、そう問う。
それに頷くと、小さく「そっか」と返事が聞こえた。
「ねぇ。俺が・・・あーたと別れた本当の理由・・・知りたい?」
潤が俺に別れを告げた本当の理由?
「本当の理由。知りたい?」
本当の理由も何も、
お前は俺達の関係に意味がないって
もう辞めたいって
そう云ったじゃないか。
俺が眼を白黒させていると
潤は頭をぽんぽんと叩いた。
「あーたに俺は、関係に意味がないって、もう辞めたいってそう云ったよね」
俺は浅く頷いた。
間違いなくお前はそう云ったんだ。
だから俺は・・・
「でも本当はそうじゃないんだ」
違う?
じゃあ・・・
じゃあ
「俺は、別にあーたが嫌いになったワケでもなければ、関係が嫌になったワケでもない」
一体何が
「俺はあーたに泣いて欲しくないだけなんだ」
俺に
泣いて欲しくない?
「俺と居ると・・・あーた何時も泣いてばっかじゃん」
泣いてる?
俺が?
「耳まで真っ赤にしてボロボロボロボロ。そんなあーた見てられないんだよ」
俺が泣いてる?
そんな俺を見てられないって
だからお前は俺と別れたっていうのかよ。
そんな
そんなくだんない理由で?
ドガッッッ!!!!!
ガシャンッッッ!!!!!!
俺は無意識の間に潤の頬を殴り飛ばしていて
潤はその身体を金属の棚に強くぶつけた。
いい気味だ。
「ッぅ・・・・」
身体ん中の熱が全部上に上がってきてる。
手は震えていて、足だって震えてた。
「殴られて当たり前だね」
「でも俺は後悔してないよ。あーたが泣くのを見るのはもう嫌だ」
何勝手な事云ってんだよコイツ。
俺が泣くのを見たくない?
そんなの、お前が勝手に考えて思いつめて
そう思っただけの話だろ?
俺には知った事じゃない。
そんなの勝手だ。
「馬鹿野郎ッッッッ!!!!!!」
声に出した言葉は
少し枯れていて、迫力には欠けたけど
コイツの馬鹿な頭にブチ当てるには十分だった。
「あーた・・・声・・・」
「馬鹿野郎ッッッ!!!」
「・・・声出てる・・・」
「結局はッ・・・俺の気持ちなんて判ってないじゃないかッッ!」
「キリト・・・・・」
「どんだけ俺がッ・・・どんだけ俺がッ・・・ッぅ・・・」
声が出たら
次は出なくていいモンまで眼から流れてきて
俺はそれをぬぐうのに必死だった。
「また泣く・・・泣かないでよ。あーたが泣いたら・・別れた意味ないじゃん」
「俺は・・・お前が居ないと駄目だって!!・・何回もッ・・」
「判ってるよ。それは昨日も聞いた」
「全然判ってないッ!!俺はお前が居ないと駄目だからッ・・・お前が傍に居ないと泣くんだよッ!!」
「え?」
「あーもうッ!!そうだよそうだよ!俺はお前が居ないと泣くような弱い男なんだよッ!!」
「あーた・・・何云って・・・」
悔しいけど
こうでも云わないと
コイツは判っちゃくれない。
素直になんないと、コイツには伝わらないんだ。
「俺はお前が居ないと泣くからなッ!!ベソベソベソベソ泣くからなぁッ!!」
「ちょっ・・・あーた・・」
「お前はそんな俺から逃げたんだッ!泣く俺を見たくないからって逃げたんだよッ!!!」
「別にそういうワケじゃ・・・」
「違わないッッ!!!!」
「ぅはいッ!」
いい訳仕掛けた潤が俺のイキオイに押されて返事をする。
「いいかッ!お前は逃げたんだからなぁッ!!」
そうだコイツは逃げたんだよ。
俺の泣く姿を見たくないっていう現実から
別れる事で逃げたんだ。
逃げた現実に俺は置き去りにされて
コイツはさっさと理想の世界に逃げた。
そんなのって無責任すぎる。
全然違う理由で別れを告げられて
コッチに置き去りにされた俺は何だ?
馬鹿みたいじゃん。
責任取らせてやる。
現実に迎えにこさせてやる。
「責任取って、俺を今晩中に迎えに来いッ!!馬鹿ッッ!!」
「え・・?迎えにって・・・ドコに?」
「それぐらいテメェで考えろ馬鹿ッッ!!」
「いや馬鹿馬鹿って・・・」
「今晩中に来なかったら、俺はもう絶対お前のトコになんて戻らないしお前を許さないッ!」
「アイジんトコに迎えに来なかったらそのままアイジのモノになるからなぁッ!!覚えとけ馬鹿ッッッッ!!!!」
バァァァァンッッ!!
俺はそう云って部屋を荒々しく後にした。
あぁスッキリ。
場所ぐらいテメェで考えろよこのウスラトンカチッ!!
俺を振った理由が
俺を泣かせたくないからだとぉ?
だったら泣かせないようにしっかり見張ってろ馬鹿ッ。
***
「あーた自分でアイジんトコって云ってるじゃん」
俺の出て行った後の部屋では
潤がそう云って、馬鹿笑いしていた事を
俺が知るはずは勿論ない。
■一言■
こういう形で兄やんは理由を知る事になったわけであります。
あぁもうご不満の声は百も承知で御座います…(滝汗)
でもまだスンナリは終わりませぬ。
だってまだ問題児がね(笑)
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