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あの頃の俺たちに
戻る術はあっただろうか。
Jealous
第6話:「最後の呪詛」
<SIDE 潤>
暫く暗い部屋で座り込んでいる間に
熱かった頭が冷えて、意識がはっきりしてくる。
それに伴って
さっきより犯した罪の重さに潰されそうになった。
「キリトッ・・・・」
今度は涙は出なかった。
もう枯れてしまったんだろうか。
それとも、
コレが正しいと理性が認識して
涙を出させないんだろうか。
「何してんだ本当ッ・・・・」
自分が云った言葉を思い出すだけでも虫酸が走る。
そんな言葉が本当に口から出るなんて思ってもみなかった。
またそれを
あーたに突きつけるなんて
想像もしていなかった。
でもここでどうしようかと悩んでいる場合じゃなくて
本当は動かなきゃいけないことぐらい
頭のどっかで理解は出来ている。
自分で動かなきゃ、どうしようもない事ぐらい。
放っておいたら
このまま終わってしまうのは確実だった。
だったら今しかない。
「謝ろう」
許して貰えるとは思っていなかった。
寧ろ許してなんて貰えない事を俺はしたんだから。
でも、このまま終わらせたくはなくて
気がついたら
俺は控え室で鞄を掴んで、外に走り出ていた。
***
行き先はどこか検討はついていた。
アイジの家に居るに決まってる。
キリトがそのまま家に帰るとは思えなかった。
だって、俺が別れを告げた部屋だから。
その部屋に一人で今帰れる状態とは考えられなかったから。
車を乱暴に走らせて、
信号を待っていられる程利口でもなくて
とにかく一分でも一秒早く謝りたかった。
アイジの家に到着して、車を降りてマンションの階段を駆け上がる。
エレベーターは待っていられなかった。
息が切れて、いつもより自分の周りの酸素が薄く感じて
アイジの部屋の前に辿り着いた時には
息も上がって、額にはうっすら汗が滲んでた。
呼吸を一旦整えて
インターフォンを押す。
手は震えていた。
1回押して
少し間隔を置いてもう1回。
居ないハズはない。
俺がココに来る事を、知っているハズもない。
寧ろ来るハズのない人間だから。
少しして、ドアの向こうで慌しくこちらに向かう足音が聞こえて
やっとドアが開いた。
ガチャッ
「はい?」
ドアの向こうから見えたのは
シャツとパンツ姿のアイジだった。
ドアの向こうに立つ人間が、俺だと知って
アイジの顔色は一変した。
「ッ・・・潤君」
「御免・・押しかけて」
「・・・何のよう?」
「キリト・・いるよね」
「居るけど何」
「話あるんだ・・」
ドンッッッ!!!!
途端に俺はアイジによって、壁に押し付けられる。
胸倉を掴まれて思いっきり打ち付けられた背中が痛い。
「今更何の話があるっていうんだよ!!」
「・・・・イッ・・・だから・・謝りたくてッ・・・」
「だったらなんであんな事云うんだよ!!キリトがどんだけ傷ついてるか!!」
「御免ッ・・・判ってるよ・・」
「ちっとも判ってないッ!!!」
「お願いアイジ・・少しでいいから、話させて」
「嫌だッ!!」
「それはお前が決める事じゃないだろ」
「ッ」
「いいから話させろ」
俺はアイジの身体を押しのけ家の中に駆け込む。
アイジの声が後ろから聞こえたけど、
気にせず奥へ進む。
リビングに姿はない。
って事は。
俺は迷わず奥のドアを開ける。
暗い部屋。
手当たり次第に横の壁に触れてスイッチを探し電気をつけた。
そこには
「・・・アイ・・ジ・・・?」
キングサイズのベットに横たわる一つの身体。
ここから見ても判るその姿は
全裸でシーツに包まれているものだった。
勿論それは、愛しい人。
振り返ったあーたの顔が驚愕の色に染まったのは云うまでもなかった。
「潤ッ!!」
「あーた・・・・何して・・」
何をしているかなんて
今の状況を見れば誰にだって理解出来る事だった。
床に散らばった服。
ベットに全裸で横たわるあーた。
この家にはアイジとあーたしかいない。
「何で・・ココに・・・」
「アイジと何してたの・・・?」
「ッ・・・」
「俺と別れたから・・・?だからアイジに・・・」
「俺がッ!」
「・・・」
「お前と別れた俺がッ・・・誰と何しようと関係ないだろ」
もっともだった。
すでに別れた後で、あーたが誰とどうしようなんて
本当俺には関係ない事だった。
でも
胸のどっかでモヤモヤした何かが
俺の怒りを煽るのはどうしてだろう。
「ッ・・・そりゃそうだけど」
「・・・で何だよ・・・」
「・・・・・謝ろうと思ってさ」
ここで俺がまた理性を失ったら
それはさっきと同じ事で。
「謝る・・・?」
「酷い事・・・・云ったから」
「もういいよ。気にしてないし」
「そんなハズない。俺・・・本当酷い事・・」
「・・・・・・」
「本当・・ごめ・・」
御免と云おうとした瞬間に
肩を掴まれて引き寄せられたと思ったら
頬に鋭い痛みが走った。
視界が揺らいで、アイジの殺気だった顔が一瞬目に映る。
その後、俺の身体は床に叩きつけられた。
「ッぅ・・・」
口内に金属の味が広がる。
痛みに浸る暇もなく、俺の上にアイジが飛び乗り胸倉を掴み上げた。
「アイジッ!!!」
それをキリトが声を上げて止める。
「お前ッ!!おかしいだろそれッ!!」
「止めろアイジッッ!!!」
デカイ上着を羽織ったキリトは、アイジの腕に掴みかかってそれを静止する。
多分、キリトが止めてなかったら
もう1、2発は殴られているのは確実だった。
「おかしいだろ!!何で謝るんだよッ!!謝るぐらいなら云うなよ!!!」
「アイジッ!」
「止めんなキリトッ!!」
「お前が殴る必要ねぇだろッ!!!!」
「あるよ!!コイツにこんな事云わせて!黙ってなんてられないッッ!」
「いいから黙ってろ!!お前が手ぇ出す必要ないんだから!」
何度か云い合いをして、何かを押し殺したようにアイジは
俺の上から退くと、寝室を乱暴に出て行った。
それからキリトは何も云わないで居て
その沈黙の間に、改めて痛みが頬に伝わってきた。
「大丈夫か・・・?」
「ん・・・平気」
「何で来たんだよココに・・・あぁなることぐらい判ってたんだろ?」
「・・・判ってたけど・・・あーたに謝りたくて」
「謝って貰ったって・・・・どうしようもねぇよ」
「・・・・ん」
「謝って貰ったって・・・・」
「キリト・・・」
「っぅ・・・・・」
キリトは押し殺すように涙を堪えて
俺から顔を逸らす。
「キリ・・・」
思わずその肩を掴もうとすると
その手を避けられて。
「優しくすんなってんだろ・・・」
「・・そうだけど・・・・」
「もう恋人同士でもない・・・ッんだし」
「だけどッ・・・」
「お前に優しくされるとッ・・・俺が困るんだよッ!・・・辛いんだよ・・」
「・・・・・うん・・・判ってるよ」
「もう・・・もう限界だッ・・・・・」
「うん・・・」
「俺はッ・・・・まだお前が好きだよ・・好きだ・・・」
これほどまでに
あーたに云われてズシンと響く言葉なんてなかった。
その身体を今すぐ抱きしめて、俺もだって。
そう云ってやれたらと思う。
でももう
戻れないんだ。
「俺も好きだよ」
「なぁッ!・・・戻れないのかよ・・俺達」
「何もなかった事に出来ないのかよッ・・・・」
「キリトッ・・・」
その身体を抱きしめたら
背中がきゅうと軋んで、俺の腕ん中にすっぽり納まった。
服を背中越しに掴まれて、めい一杯キリトがしがみ付いてくる。
顔を俺の胸に埋めて、声を押し殺して泣いてるのが判る。
「御免・・・御免キリト・・・」
そんな俺の声なんてきっとあーたには聞こえてなくて
結局俺はこうやってまたあーたを泣かせている。
「でもキリト・・・」
「やっぱり戻るのは無理だよ」
また泣かせて、決断を先走る。
後5分後に云えば、もう少し楽だったかもしれない。
明日云えば、もっともっと楽だったかもしれない。
でも俺は敢えて、今それを口にした。
今云わないと
本当にあーたに負けそうで。
「俺はッ・・・お前が居ないと駄目なんだよ・・・・」
「俺もあーたが居ないと駄目だよ・・」
「お前でないとヤなんだよッ!!」
「俺もあーたでないとヤだよ」
「お前が好きなんだよッ・・・・」
「俺もあーたが好きだ」
「戻ってこいよ潤ッ・・・・俺と一緒に居ろよ・・・傍に居てッ・・・」
ここで俺があーたに負けていたら
きっと今より良い未来になっていただろうか。
もっと抱きしめて、もっとキスをしていたら
もっと楽になれていただろうか。
もしかしたらあの時が本当の戻る最後の術だったのかもしれない。
でもその頃の俺には
そんな戻る術すら見えていなくて。
結局はまたあーたを泣かせてしまう言葉を選んだ。
「終わりにしよう」
それは
あーたの言葉を失わせる
最悪の呪詛になった。
■一言■
っというわけでついに3人揃ってしまいました。
本当この展開には小一時間悩みました。
アイジを引かせるか、潤君を引かせるか、兄やんを引かせるか。
もう何がなにやら(苦笑)まだまだ続きあります!!
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