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お前はどう思うだろう。
Jealous
第4話:「フラッシュバック」
<SIDE キリト>
走った。
とにかく走って走って走って。
何度か躓いてこけそうになったけど
それでも走った。
振り返りたくなかった。
『アイジが好きなの?アイジがいいの?』
『アイジにこれから抱かれんのかよ』
『淫乱』
『懲り懲りだよ』
潤の馬鹿。
潤の馬鹿。
潤の馬鹿。
何で何でそんな酷い事。
「ッぅ・・・」
玄関ホールに出た所で、
息が詰まって、足に力が入らなくなって
座り込んだ。
涙がどんどん出てきて
留まる事を知らない。
俺、お前に何かした?
「・・・・馬鹿やろッ・・・馬鹿ッ・・・」
俺に淫乱だと云った時のアイツの目は
信じられないぐらい冷たかった。
俺を掴んだ手も氷のようだった。
あんなアイツを見たのは初めてで
怖くて。
全然違う人みたいだった。
少なくとも
俺の知っている潤じゃなかった。
俺はアイツの人格を変えてしまう程
イケナイ事をしたんだろうか?
自分で知らない間に
アイツを苦しめて、傷つけていたんだろうか。
判らない。
どうしてアイツがあんなにも怒っているのか。
どうしてこうなってしまったのかも。
「潤ッぅ・・・・」
綺麗に磨かれたフロアに涙が落ちる。
フロアに映った自分は、酷い顔をしていた。
「キリトッ!!!」
「・・・っ」
名前を呼ばれて顔を上げると
アイジが血相を変えて走ってくる姿が見えた。
床に座り込む俺に駆け寄り、顔を覗き込む。
「遅いからどうしたのかと思ったらッ・・・どうしたの?!」
「っ・・・ぅうん・・何でもない」
「何でもなくない!何で泣いてんの!?」
「何でもないからッ」
「・・・・・潤君?」
「ッ」
アイツの名前を耳にして
小さく見せた動揺の色をアイジに伺われる。
「潤君なんだね」
「違うッ・・・もうアイツとは何でもないから!」
「キリト・・・」
「帰ろ」
俺は荷物を持って、歩き出した。
その後を遅れてアイジが付いて来る。
それからアイジは何も云わなかった。
車の中でも一言も。
でも逆にそれがアイジなりの優しさなんだと俺は思った。
下手に言葉を口にするより、何も云わないで放っておいてくれた方が
今の俺には丁度良かったから。
家に帰ろうかと思ったけど、潤に別れを告げられた部屋に
今は足を踏み入れる勇気は無かった。
それに一人にはなりたくなかった。
だからアイジが車を動かすまま、家に行った。
アイジの家に着いて、車を降りてエレベーターに乗る。
部屋に着いてもアイジはまだ言葉を口にしなかった。
ようやくアイジが喋ったのは
部屋に入ってお互いがソファーに落ち着いてからだった。
「・・・・潤君に何云われたの?」
「別に、何も云われてない」
俺の横に座るアイジはそう問う。
「じゃあ何で泣いてたの?あんなとこで」
「こけて足が痛かったから」
「下手な嘘はよしてよ。俺真剣に聞いてんだけど」
「・・・アイジには関係ないことだから」
「俺云ったよね?アンタが好きだって。好きな人がこんなに傷ついてのに黙ってらんないの」
「・・・・・」
「云ってくれないなら無理にでも聞き出すよ?」
「え・・・?」
「潤君に電話すればいいだけの話だしね」
アイジはそういうとポケットから携帯を出して
ボタンを押す。
「ちょっ!辞めろアイジッ!!」
手を掴んでそれを静止すると、
そのままアイジに身体を引き寄せられ抱きしめられた。
「話してよ・・・お願い」
「アイッ・・・」
「お願いだから」
そう云ったアイジの声は切なくて、苦しそうで。
自然に口から言葉が出る。
「アイジの事が好きなのかって・・・」
「アイジに抱かれんのかって・・・・・」
「・・・・・ッ・・・・俺は淫乱だってッ・・・・・」
「もう・・・・懲り懲りだって・・・・」
潤に云われた言葉が頭をフラッシュバックする。
目からは、やっぱり涙が流れて。
また止まらなくなった。
「俺アイツに・・・アイツに何かした・・・?」
「俺はまだッ・・・・アイツが好きなのにッ・・・・・」
「キリトッ・・・」
あんな事云われても
散々罵られても
俺の気持ちは潤が好きだと云う。
どうかしてるんじゃなかって自分でも思う。
アイジが俺の顔を覗き込んで、頬にキスをした。
「潤君が・・好きなの?」
何も答えなかった。
「そんな酷い事云われたのに・・・?」
「そんなに泣いて、辛いのにまだ好きなの?」
「もう潤君なんかやめて・・俺にしなよ」
視界が揺らいで、そのまま俺はソファーに押し倒される。
首筋にアイジの唇が這って、腰を抱え込まれた。
「やッ!」
「俺大事にするから。キリトの事大事にするからッ・・・」
「まッ!・・・待ってアイジ!」
大きな目で俺と視線を合わせる。
どういうわけか、アイジに視線を奪われると
言葉まで奪われて、云いたい事が口に出来なくなる。
「アンタが好きなんだ」
その距離はもう遠ざける事は出来なくて
唇が重なる。
それを拒む事も出来なかった。
「ッぅ・・・んぅ」
ゆっくり唇を重ねた後、入り込んでくる舌を拒む事は出来なくて
自然に互いの舌が絡む。
アイジの舌が歯列をなぞって、ゆっくり口内を動く様に
頭がぼんやりしてくる。
そのうち小さな音を立てて、唇が離された。
アイジはそのまま、俺の首元に顔を埋める。
柔らかい髪が頬に触れてくすぐったいと同時に、やけにそれが愛しく感じた。
「抱きたい」
「ッえ・・・?」
アイジがぽつりと放った言葉に耳を疑った。
「何云って・・ッ」
「抱きたい・・・・アンタを抱きたい」
「無理だッ・・・それは」
「潤君が怖いの?」
「・・・・そう・・じゃないけど・・・」
「もうアンタを目の前にして、我慢なんてしない」
そう云ったアイジは俺の上着に手を滑り込ませる。
暖かい手が肌に触れて、身体がピクリと反応した。
何とかやめさせようと、腕を押しのけるが
それも大して効力は無く、ままならない。
「嫌・・・?俺が嫌い?」
「違うッ・・・そういうことじゃなくて・・・」
「じゃあどうして?」
「だって・・・だってこれじゃ・・・」
本当に潤の云う通り
淫乱なだけだ。
「俺ッ・・・・」
「忘れさせてあげるから。辛い事も全部・・・だから俺にしなよ」
そう云って口付けた唇は
さっきより暖かで、刹那に頭が白くなった。
アイジの服をキツク掴む。
もうアイジを拒む理由も見つからなくて
そのまま流されている自分が居た。
まだ別れを告げられて1日と経たない間に
違う奴の温もりに甘える俺を
お前はどう思うだろう。
やっぱり、淫乱だと思うんだろうか。
なぁ、どう思う?潤。
■一言■
さぁどんどんアイジへと流されていく兄やん。
潤君は自己崩壊に陥ってるし…兄やんは流されつつある。
さてこれをどうつなげるか…(ぶつぶつ)
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