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あぁなんて俺たちは
不器用なんだろう。
Jealous
第4話:「器用と不器用」
<SIDE 潤>
アイジがキリトを連れ出してから20分。
未だに戻ってくる気配はない。
部屋を出る直前に目が合って、逸らす事は出来なかった。
それは相手も同じ事だったと思う。
気を紛らわす為に、葉巻を手に取って火をつけた。
一服二服するが、落ち着かない。
別れたのに、こんなにも気になるのは
あんな別れ方をしたからだろうか。
云わなければ良かったのかと
後悔の色が頭を過ぎった時。
控え室のドアが開き、二人が戻ってきた。
二人は途端にマネージャーに捕まり
説教をされる。
それにアイジが「御免御免」と手を合わせて
キリトはその後ろで視線を斜め下に下ろしているだけだった。
ふいにマネージャーがそれに突っ込むと
アイジが何やらフォローしているのが見えた。
マネージャーから解放されて、二人は並んでソファーに腰掛けた。
その距離は、今までの二人から考えても幾分か近い。
アイジが煙草に火をつけると、キリトもそうした。
二人で何やら会話をしていて、キリトには笑顔も垣間見れた。
「そんなに二人が気になる?」
「うおっ!」
「二人に穴開くぐらい見つめちゃって」
「・・そんなんじゃないよ」
突然俺に声を掛けてきたのはタケオ君。
俺の横に腰を掛けて煙草をふかす。
「なぁに?喧嘩でもした?」
「や、別れた」
「へ?別れたの?」
「そう」
「何でまた」
「嫌いになった」
俺の話をふんふんと聞いていたタケオ君の動きが止まる。
吐き出された紫煙は、空を彷徨っていた。
「キリトの事が?」
「うん」
「へぇ」
「何も云わないの?」
「だって云ったって聞かないでしょ?」
「聞くかもしれないじゃん」
「いいや聞かないね」
「判らないよ云ってみないと」
「何?云って欲しいの?」
「・・・そういうわけじゃないけど・・・」
チラリと俺を横目で見たタケオ君は
紫煙を吐き出し、まだ長い煙草を灰皿に押し付けると
立ち上がり
「嫌いになった人間をそこまで見つめなくてもいいと思うけど?」
そういい残して「仕事だ仕事」と向こうへ行ってしまった。
そしてまた一人になって
視線は自然と二人を追う。
タケオ君と話している間も
二人は更にじゃれあっていた。
多分、いつものようにアイジが何か云ったんだろう。
キリトがアイジの頭をペシペシ叩きながら何かを教えている。
ふと、アイジと目が合った。
目を逸らそうにも、アイジがそうさせてはくれない。
キリトはその視線には気付かないで居た。
アイジは途端にキリトの腕を引き
自分へと引き寄せると、その頬に口付けた。
「ッ!」
思わず目を逸らす。
キリトの怒鳴り声とアイジが謝るやりとりが響く。
でもその声は幾分か遠くに聞こえた。
何かが膜を張っているかのようにくぐもって聞こえる二人の声。
キリトにキスしたアイジの心情は、恐ろしいぐらいに判る。
口付ける最中も目を離さなかった事。
その目が、どれだけキリトを思っているかも、
全てが俺にテレパシーのように伝わる。
もう別に関係のない事のハズなのに。
どうしてこんなにも苦しいんだ。
あんな別れ方をしたから?
***
仕事が済んで、
キリトともう一度話をしようと腹を括った俺は
まだスタッフと話し込んでいるキリトを待つ事にした。
俺の感情を一方的に押し付けた事については
本当に悪かったと思っている。
考えてみれば、キリトの話も聞かずに最低だったと思う。
だからこそ、ちゃんと話をしようと思った。
でもそれは
ただの戒めなのかもしれない。
自分の胸の苦しみを取り除くだけの
ただの口実なのかも知れない。
それでも
そうするしか今の俺には答えがなかった。
そうこうしている間にキリトがスタッフに「また明日」と告げて
コートを取りに向かった。
ハンガーに掛けられたコートを取り、鞄を持ったキリトは
一直線にドアに向かう。
俺はそのキリトの肩を叩いた。
途端にキリトの身体が上に跳ね上がる。
「な・・何だよ」
怯えているようにも伺える目。
でも今は見えない事にした。
「話があるんだ。ちゃんと話がしたい」
「・・・俺は話す事なんてない」
「一方的にあんな云い方して御免。謝るから」
「ッ!今頃謝るぐらいなら最初っからあんな云い方しなきゃいいだろ?!」
キリトの声が控え室に響く。
幸いスタッフは明日の段取り組に夢中で大して気にもしていない様子だった。
「声が大きいよ。向こうで話そう?ね?」
「俺はお前と話す事なんてないって云ってんだ!」
掴んだ腕を強く振り払われた。
「キリッ・・」
「アイジが待ってるから」
それだけ云い残して、振り返る素振りもなく
キリトは控え室を出て行った。
でもここで引き下がったら
もう二度とマトモに話なんて出来ないと思った俺は
そのキリトを追いかける。
風のように廊下を走るキリトの姿が見えた。
それを追いかけて走る。
荷物を持ったキリトと、何も持っていない俺。
幾ら俺でも、容易に追いつける距離。
グングンとその距離を詰めて、腕を再度掴んだ。
「ッ!!」
「話聞いてキリトッ」
「離せッ!!俺には話す事なんてない!!」
「ちゃんと話しようよ。お願い」
「っさい!!!手離せッ!!!」
キリトは俺の言葉なんて聞いてなくて、
ただがむしゃらに暴れ回る。
鞄とコートが音を立てて床に落ちる。
「御願いッ。キリト!」
「アイジが待ってんだよッ!!離せッ!!」
キリトの口にした言葉で
頭の隅で何かが切れた音がした。
俺は暴れるキリトを押さえ込んで、
「書類室」と札の掛けられたドアを蹴り開ける。
中は真っ暗でこの時間に人なんて居やしない。
そこにキリトを無理矢理放り込んで、床に落とした鞄とコートも引き込んだ。
ガチャンッッ
金属音を立ててドアが閉まる。
「ッ・・・出せッ!!」
「あーたが話聞いてくんないから」
「今更聞く事もないって云ってんだろ!」
「10分・・・ううん5分でいいから」
「そんなにアイジを待たせてられるか!どけッ!!」
キリトは俺を押しのけるとドアを開けようとする。
アイジアイジアイジアイジ。
俺と別れたら今度はアイジ?
俺との話より、アイジを選ぶって?
「イッ!!!」
外に出ようとするキリトの腕を荒々しく掴み
自分へと引き寄せる。
苦痛に歪んだキリトの顔が暗い中でも伺える。
「痛い!!」
「痛くしてんの。話ぐらい聞いてよ」
「嫌だッ!」
「強情者。御願いだから話聞いて」
「何度も云わせんなこの馬鹿ッ!聞く事もないし話す事もない!!」
「御願い」
「くどいぞお前ッ!!!」
「御願いキリト」
「黙れもうッッ!!!」
「キリトッ!御願いだから!」
「嫌だ嫌だ嫌だッ!」
「お前なんか大嫌いだッッ!!!」
キリトがヒステリックに何かを叫んだ後。
パアァァァンッ
俺は無意識にその頬をぶっていた。
乾いた音が部屋に響く。
「話ぐらい聞いてくれてもいいんじゃないの?」
何でこんな事を云ったかは覚えていない。
ただ、キリトの目が怯えていたのだけは脳裏に焼きついている。
何が起きたのか
どうして自分がぶたれたのか判らないでいるキリトは
目に沢山の涙を溜めていた。
「それとも何?俺が消えたら今度はアイジ?」
「・・・ッ」
「アイジのがいいの?好きなの?アイジが」
「・・・・・」
「それともさっき部屋出ていった時にキスの一つでもしたとか?」
「じゅッ・・」
「これからアイジと帰って、そのまま抱かれんのかよ」
思ってもいない言葉がどんどん口をついばんで出てくる。
こんな事を云うつもりじゃないのに。
こんな事を云ったって仕方ないのは判ってる。
なのに
理性は止まらない。
「お前の話したい事って・・・それだけかよ」
「結構なご身分だね。俺と別れてまだ1日と経ってないのに」
「それだけかって聞いてんだよ」
「それとも何?一日でも抱かれない日があると我慢出来ないワケ? 淫乱」
「ッ!!!」
今度は俺が頬をぶたれた。
当たり前だ。
俺の頬を叩いたキリトの目からは
ボロボロと涙が流れていた。
違う。
あーたを泣かせたいワケじゃない。
こんな事が云いたいワケじゃないんだ。
「もう懲り懲りだ・・・お前なんか・・・」
「俺だって懲り懲りだよ」
それだけ云って、キリトは袖で涙を拭いて
鞄とコートを持って部屋を走り去った。
ドアがまた金属音を立てて閉まる。
今度はさっきより重たくて冷たい音。
途端に全身の力が抜けて
床に俺は座り込んだ。
「ッ・・・・何やってんだ俺・・・」
たまにある理性の飛ぶ瞬間。
前触れはキリトからアイジの名前を聞いた時。
頭の隅で何かが切れた音。
でも、それが全てとは云えない。
また一方的に気持ちを押し付けて
一方的に傷つけた。
今度は
戻れないぐらいにグチャグチャに。
果てしない絶望感と
自分の犯した罪に
俺はどうする事も出来なくて
「御免ッ・・・御免・・・キリトッ・・・・」
口から出る言葉は
謝罪と愛しい人の名前だけだった。
■一言■
どうしようかもう(苦笑)
段々潤君が壊れてゆくのですが…(汗)
鬼畜っていうか酷いっていうか…クレーム出そうなぐらいだこりゃ。
うんでもまだまだお話は続きますです。
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