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どうして突然別れを告げられたのか
そればかり考えていて
次第に頭が重くなっていった。
Jealous
第3話:「意思の疎通」
<SIDE キリト>
幾らしんどくても
幾ら辛くても
仕事の時間はやってくる。
重たい身体を起こして準備をして
車に乗り込み潤の家を出た。
仕事場に到着して、控え室に入るとそこにはもう潤が居て
いつものように挨拶をしてくる。
「おはよう」
それに普通に返事を返せる程、俺は出来た人間じゃなくて
そのまま何も聞かなかった事にしてソファーに腰を下ろした。
何でアイツはあんなにも普通にして居られるんだ?
何事もなかったかのように。
ついさっきの出来事なのに。
ソファーにゴロンと身体を倒し目を閉じた。
先は真っ暗で深い。
このまま消えてしまったら
ラクになれるだろうかと、ふと考えた時
誰かに頭を撫でられた。
「んぁ・・?」
目を開けるとそこには俺と目線を合わせてしゃがみこみ
俺の頭を撫で続けるアイジの姿があった。
「アイジ・・・?何してんの?」
「ううん」
「ううんって・・・」
「気にしなくていいよ。そのまま寝ててー」
「いや気になるっちゅーの」
「いーからっ」
一体アイジは何がしたいのか。
行動がおかしいのは元からの事だし、別に何でもいいけど。
心地が悪いわけでもなく、寧ろ頭を撫でられるのが心地いいと思ったから。
また目を閉じたら、今度はどういうわけか先は暗くなくて
ほんのり光があった。
柔らかい光が見えて、途端に眠気が襲ってくる。
四肢がソファーに沈んで、頭を撫でられている所為で
どんどんと眠気が深くなる。
「眠たい?」
「・・・ん」
「どうして泣いてたの?」
「・・・え?」
突然のアイジの言葉に思わず目を開けた。
「泣いてたでしょ?」
「泣いてないよ。俺が泣くワケないだろ」
目の前の俺を見ているハズなのに
でもどこか奥を見据えているような目でアイジは云う。
思わず俺は目を逸らした。
「じゃあどうして?」
「何が」
「じゃあどうしてそんなに泣きそうなの」
途端に身体が凍りついた。
泣きそう?
俺が?
俺は泣いてないし
今別に淋しいと思ったわけでもない。
心地いいと思ったこの雰囲気に浸っていただけだ。
なのにどうして?
なんで俺が泣きそうにならなきゃならないんだ。
「泣きそうって・・・んな事ねぇよ」
「嘘だね。ちょっと来て」
「ッ!ちょっ!アイジッ!!」
頭を撫でていた手は、俺の腕を掴み強制的に立ち上がらせる。
そのままアイジに引っ張られて、俺は部屋を強制的に連れ出された。
部屋を出る瞬間に、潤と目が合う。
何てバツが悪いんだ。
部屋から出てどこに行くのかと思ったら、向かいの用具室。
バタンッッ!
ドアが閉まって、アイジが鍵を掛ける。
一体何だって云うんだ。
「お前ッ・・・・仕事ッ!!」
「知らない。何があったか聞くまではココから出さない」
「っざけんな!」
「ふざけてないよ。潤君と何があったの」
「ッ!!」
「やっぱり何かあったんじゃない。尋常じゃないもん、その目」
そう云われて思わず俺は手で目を被った。
確かに、潤にも云われた通り目は悲惨な状態だった。
晴れ上がって、擦り切れて。
被った俺の手をアイジが掴む。
もう片方の手も掴まれて、俺は後ずさりした。
「離せッ」
「嫌だ。何があったの?何で泣いたの?」
「お前に関係ないだろ!俺とアイツの問題だ!!」
「関係あるよ。俺はキリトが好きだから、こんな風に泣かされてんのを黙ってなんて居られない」
アイジの気持ちには、薄々感づいては居た。
でも俺はそれに今まで気付かないフリをしてきた。
気付いてしまったら、きっと潤との間に溝を作ってしまうと思ったから。
「関係ないッ!お前が俺を好きでも関係ない!」
そしてまた俺は、その気持ちに蓋をする。
もう潤とは別れたのに。
まだ俺は気付かない事にするつもりなんだ。
ドンッ!
背中に冷たい壁の感触。
気付けば俺は部屋のコンクリ壁へと追いやられていて
両手はアイジの大きな手によって、壁へと押し付けられていた。
「とりあえず手離せッ!!」
「アンタ何時まで俺の気持ちに蓋をするつもり?」
「・・・」
「そういうの残酷じゃねぇ?大分前から気付いてたクセに」
「知るかよッ!」
「そうやって何でも見ない事にしてきた結果なんじゃないの?潤君との事もさ」
「なッ・・・お前に何でそんな事云われなきゃいけないんだ!」
「潤君との間に溝作んのが嫌で、不安要素に全部蓋してきたんじゃないの??」
「・・・ッ・・・」
「そんなの本当の恋愛じゃないじゃん。そんなんで付き合ってて楽しいの?」
「お前っ・・いい加減にしろよ!何でそこまでッ」
「そんなんで本当に好きだって云えんの?」
パァンッッ!!!
俺はアイジの腕を振り解き、その頬に平手打ちをした。
何でお前にそこまで云われなきゃいけないんだよ。
何で
何でお前何かに
俺の気持ちなんて判らないクセに。
アイジはぶたれた頬を手で被い、チロリと舌で唇をなぞる。
その舌先にはほんのり血が乗っていた。
「そうやってムキになるって事は図星?」
「ッ!!」
開口一番に何を云うのかと思ったら
まだ云うつもりらしい。
頭に来た俺は、また手を振り上げた。
が、今度はその腕を掴まれて拘束され
強く壁に押し付けられた。
「ッ」
「図星なんでしょ?話してよ。話聞くから」
「これが話聞くって体制かよッ・・・」
「アンタが暴れるからだよ」
「お前がムカツク事云うからだろっ!!」
「話してくれる?」
「誰が話すかッ」
「・・・・ムカツク」
「俺はお前がムカツクんだよ!」
「そんなに潤君が好きなの?」
何度か喧嘩腰に言葉を交わした後
アイジが更に真剣な表情で問いた一言はヤケに重く感じた。
俺は潤がまだ好きなんだろうか。
あんな別れ方をしたのに
まだ好きだと云えるんだろうか。
俯いて何も云えずにいると
するりと両手が開放された。
「黙ってるって事は・・・まだ迷ってるって事?」
「・・・・」
「こんなに目腫らすぐらい泣いたんでしょ?」
「・・ィッ・・」
アイジはその指の腹で俺の腫れた瞼をなぞった。
目はまだ熱を持っていて、触れた瞬間にピリピリと痛みが走る。
「こんだけ酷い事云われて泣いても、まだ好き?」
「・・・・・・」
「俺はー・・・キリトが好きだよ」
「アイ・・」
「黙って。ちょっと云わせて?」
「・・・ぅん・・」
「俺はキリトが好きだから、キリトをこんな風に泣かせる潤君が許せないよ。
今すぐにでも怒鳴り込んで問い詰めてやりたいぐらい」
「・・・・・・・・」
「俺なら、こんな風にキリトを傷つけたりしない」
そしてまた目に触れる。
今度は指じゃなくて、唇だった。
冷たい唇。
「ッ・・・・」
「今すぐに好きになってくれとは云わない。ゆっくり俺の事好きになってくれればいいんだ」
「・・・・・・・」
「俺の傍に居てよ」
何の抵抗もなく、俺の身体はするりとアイジの胸に納まった。
耳元に触れるアイジの唇。
きゅうと抱きしめられた暖かみ。
まっ更なその胸に置いた手は、無意識に服を掴んでいた。
「俺にはキリトが必要なんだ」
どういうわけか
途端に目が更に熱くなって、涙が溢れた。
俺は潤に必要とされていたんだろうか。
そう考えたら何だかどうしようもなくて
自然とこぼれた涙を堪える事は出来なかった。
「ッぅ・・・アイジッ・・・」
声に出した名前に、アイジがピクリと反応して
耳元で「キリト」と呼ばれた。
アイツは俺が呼べば返事の出来る距離に居る事に
何か不満があったんだろうか。
だから、あんな別れ方をしたんだろうか。
だから
捨てられたんだろうか。
俺は、アイツの何だった?
■一言■
嫉妬三話目です。
ついにアイジ登場!地味に潤×キリ+アイな雰囲気。
物凄い重たい話になってきましたが…
兄やんと潤君の思う所が全然違うんですよね。
潤君は兄やんを泣かせたくないと思い、兄やんは潤君に嫌われたと思ってます。
さてコレをどうしていくか…(悩)
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