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潤が入院した。
■■■37.5 続編■■■
「ばーっか」
「それはさっきも聞いた・・・」
結局あれからもうワンラウンドやって
高熱で病院送りになった潤。
大事を取って、1日2日だけの入院だそうだが
本当馬鹿。コイツってば。
俺は付き添いで一緒に救急車に乗ってきた。
救急車だぞ!?救急車!!!
恥ずかしいったらありゃしねぇ。
運ばれた部屋は個室で、元々出来たばっかの綺麗な病院だから
壁もクリーム色。汚れなんて微塵もない。
お前には勿体無い(酷)
「馬鹿じゃねぇの本当」
「もう馬鹿馬鹿云わないでよ」
「馬鹿だからそう云ってんだろ」
「・・・・・もう寝かせて」
「嫌だ」
「あーたが悪化させてんじゃん!」
「俺は悪くないッ」
ベットサイドで、しかも病院で何で云い合いしなきゃいけないんだ。
俺はふと目に付いた布団から出ている潤の手をきゅうと握った。
「?」
「・・・・・手熱い」
「そりゃ高熱だから」
「でも平気そうじゃん」
「平気そうにしてないと、あーたが心配するから」
「うぬぼれんなばーかっ」
手を触ったら凄い熱くて、よく見たら額にも汗が滲んでた。
呼吸もちょっと苦しそうで。
何無理して俺との云い合いに付き合ってんだコイツは。
しんどいならしんどいって云えばいいのに。
どうして云わないんだ。
「云えばいいだろ。しんどいって」
「やーだ」
「何で?」
「あーた心配するでしょ」
「しねぇよ」
「いやーするね。ウチ戻ったら絶対自己嫌悪に陥るに決まってる」
満更その言葉は嘘じゃなかった。
大体熱出てる潤を無理矢理エッチに付き合わせたのも俺だし。
多分、家に一人で戻ったら、自己嫌悪に陥ったに違いない。
「うぬぼれ過ぎだよお前」
でもそんなことは口には出さない。
何かお前に全部知られてるみたいでヤダ。
「キリト?」
「ん?」
「そろそろ帰らないと」
「えっ?ああっうん」
握っていた熱い手を離して
俺は自分の荷物を手に取る。
「じゃあ俺帰るから」
「ん。気ぃつけてね」
「・・・うん」
何でか知らないけど
どういうわけか、後ろ髪を引かれて
ドアの前に行って、ドアノブを握っているのに
それをこちらに引けなかった。
振り返ったら、潤が笑ってた。
「どうしたの?帰らないの?」
「うっさい!帰るよッ!帰ればいいだろ!!」
言い放って、今度こそドアノブを引こうと思った瞬間。
「嘘。帰らないで」
「え」
「淋しいから傍に居て?」
投げかけられた言葉は
振り返らなくても判るぐらい、淋しさが伝わってくるものだった。
行き場をなくして空中で浮遊しているような
そんな言い方。
俺は慌てて再度振り返る。
「なんて・・・我侭すぎる?」
そう云って、口許をへらっと緩ませた潤がそこには居た。
笑っているけど、でも淋しそうで。
何でもっと早く云わないんだって思った瞬間、
俺は、無意識に荷物を床に放り投げて
潤の手を握りなおしていた。
潤は突然の俺の行動に呆気に取られていたけど
「素直に最初っからそう云えよ・・馬鹿」
そう云ったら、くすぐったそうにまた笑った。
***
手を握って、どれぐらい経ったろう。
あれから少しまた憎まれ口を叩き合ってから、潤は眠りに落ちた。
相変わらず額には汗をかいていて、寝てはいるものの呼吸は苦しそうだった。
でも手は、握られたままだった。
「馬鹿潤・・・」
しんどいならしんどいって。
淋しいなら淋しいって素直に云えばいいのに。
どうしてコイツは自分に不器用にしか、道を歩けないんだろうと思う。
格好つけてるのかなんなのか、俺には理解出来ないけど
少なくとも、それが俺の為だってのは判る。
「何か俺のが恥ずかしい・・・」
その事に変に自覚してしまっている自分と、
そういうやり方しか出来ないコイツ。
何か一気に顔が熱くなって、俺はぽすっと布団に頭を預けた。
「じゅーん・・・」
ふと口についた言葉を声に出すと
またその言葉はさっきの潤の言葉と同じように
空中に投げ出された。
行き場をなくして、フワフワ浮遊している感じ。
あぁ答えてくれる人がいないからだ。
俺が名前を呼んだら、何時だってコイツは返事をくれてた。
それが今はないから、だからこんなにもフラフラしてるんだ。
「潤・・・」
同じくまたその言葉は空中に投げ出される。
「潤」
それでも呼ばずには居られなくて
何だか切なくて
「潤ッ」
ついばんで出てくる言葉を声にしないと
息が詰まりそうだった。
潤の名前に溺れて、息が出来なくなりそうで。
苦しくて
「潤ッ・・・」
「なぁに・・?」
「え?」
目をつぶって、声に出した言葉は
今度は空中に投げ出されることはなく
俺にも返事が届いた。
「どうしたの・・・?」
「潤ッ」
うっすらと目を開けて、柔らかい笑顔で俺を見ている潤が居る。
「俺のこと呼んだでしょ・・・・?」
「ッ・・・呼んでねぇよ馬鹿ッ」
「嘘。聞こえたもん」
「呼んでないッ!」
「・・・・・淋しかった?」
「ッ・・・・」
そう云ってぽんぽんと頭を撫でられた。
淋しいのはお前だろーが。
俺は淋しくなんて
「ん・・?淋しかったの?」
淋しくない
って言い返してやろうと思ったのに
そんなちっこい気持ちとは裏腹に
俺の腕は潤の首に絡んでいて
潤を抱きしめていた。
寝ている潤を抱きしめるのは容易な事じゃなくて
身体も変な体制になって痛かったけど
でも
こうしないでいて、気持ちがズキズキするのよりは
幾分もマシだと思ったから。
「苦しいよ・・・あんまり抱きしめたら」
「文句云うな馬鹿ッ・・・」
「嘘だよ。嬉しい・・・」
「ッ・・・」
病床の時って
人間弱くなるもんだってのは知ってたけど
まさかここまで潤が素直になるだなんて思ってなかった。
弱い所を何時もみたいに抑えられなくて
口にした言葉は「淋しい」と「嬉しい」。
何時もだったら絶対云わない言葉。
素直に淋しいとも云わない。
素直に嬉しいとも云わない。
そんな潤が口にした言葉に
何かがグッとこみ上げてきて
それを飲み込んだら
目に涙が溜まった。
「・・・・泣いてる?」
「泣いてないッ」
「泣いてるじゃん・・・何で泣くの?」
「泣いてないッッ!」
「・・・・・・俺等って本当素直じゃないね。不器用」
そっと腰に回された手が凄い熱くて、
きっと熱が上がってる。
そう思ってナースコールをしようと思ったら
静止された。
「呼ばなくていいよ平気だから」
「平気じゃないッ!めちゃくちゃ熱いぞお前!!」
「しーっ・・・。静かにして。看護婦呼んだらあーた帰らされるよ」
すでに面会時間なんてとうに過ぎていて
確かに看護婦を呼んだら問答無用で帰らされるだろう。
だからって
「だからってお前ッ・・・」
「朝まで居てよ・・傍に居て・・・もう我侭云わないから」
「我侭って・・・」
「さっきはー・・あーたの我侭全部聞いたんだから・・今度は俺の我侭聞く番」
潤はそのまま俺に自分の着ている布団を被せた。
俺は上の体制からコロリと潤の横に流れ込む。
二人で一つのベットに並んだ。
「風邪うつったら御免・・・」
「いいよ。許してやる」
「・・・有難う」
「朝までここにいるから。もう寝ろ」
「ん・・・」
多分意識も大分朦朧としていたんだろう。
目を閉じた潤はすぐに眠りに落ちていった。
高熱で規則的とは云えない呼吸が聞こえてきて
俺はまた潤の手を握った。
「熱い手・・・」
その手の甲にキスをして、
それから潤のおでこにもキスをした。
「馬鹿・・・」
俺たちは本当に不器用で
お互いにお互いが自分に素直になれなくて
もう少し
あとちょっとでも素直になれたら
もっと上手く、歩けるんだろうけど
何時も遠回りをしてしまう。
でも遠回りでも、行き着く先が同じなら
別にそれで構わないかなって。
素直になれたら、こんなにも辛い思いしなくて済むのに。
本当不器用すぎる。
「潤」
愛しい名前を呼んだ声は
返事がなくても今度は浮遊する事はなく。
きっと相手に届くだろう。
***
それから潤は二日後に無事に退院。
その数日後に。
やっぱり俺が熱を出すのだった。
■一言■
もうすでに「37.5」関係ないじゃん!!!(笑)
「37.5」はお兄ちゃんが我侭云って…
「37.5続編」は潤君の我侭。
本当は潤君も淋しいけど普段口には出せない。
でも病床で弱気になった時にポロッとっていうのが良かったんですが…。
あぁもう撃沈…(凹)
折角リクエスト頂いて1位になった小説の続きがこんなのでごめんなさい;;
多分続き…あります!
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