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気付くか気付かないか。
その境目が厄介だ。
■■■Jealous■■■
第1話:「変化」
<SIDE キリト>
「今日、ウチ来る?」
「あー・・・いや辞めとく」
もうこれで5回目だ。
いつもなら声をかけたら120%の確率で家に来ていたハズなのに
ここ数日断られっぱなし。
それももう5回も続いている。
仕事では何も変わらない。
昨日と同じ、昔っから同じ。
なーんにも変わらないのに、「仕事」という時間を終えると
態度は急変する。
「用事?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「じゃあ何で」
「いや・・・そういう気分じゃないから」
「気分って・・」
気分がどうこうって。
俺はただお前と居たいだけなのに。
「悪いけど今日は本当御免。帰るね」
それだけ残して、奴は仕事場を後にした。
今日はって。
昨日もだろ馬鹿。
でもこのまま引き下がるのは嫌だった。
気分が乗らないってだけで片付けられたくない。
俺は
お前と居たいんだ。
来ないと云うなら俺が行ってやるまでだ。
「嘘・・・」
「嘘じゃねぇよ」
「何で来たの?あーた」
「お前に逢いたかったから」
「ぶっ!・・・さっきまで一緒だったじゃないすか」
「いーんだよ。俺が逢いたいと思ったんだから」
「さようですか」
「入れろ」
仕事の後、車を回して直で潤の家に押しかけた。
チャイムを鳴らしてから出てきた奴の顔はそれは呆気に取られていて。
外はまだまだ寒くて、喋るたびに白い息が上がる。
俺はドアを開けて半無理矢理に中に入った。
相変わらず部屋は混沌としていて、足の踏み場がないぐらいだった。
床に物が転がりすぎ。
「お前部屋片付けろよ」
「余計なお世話」
俺は物のない所を通り、何時もよりやや遠回りをしてソファーに腰掛けた。
少し遅れて潤が横に腰を下ろした。
距離は何時もより遠かった。
「何してた?」
「今?風呂入ろうと思ってた」
「ふぅん。じゃあ俺が入る」
「や、意味判んないから(笑)」
「うっさい。入るったら入るんだよ」
潤の返事を聞く前にその場を離れた俺は
風呂場に向かう。
湯船には真新しいお湯が十分に張られていて
冷えた身体を温めるには最高だった。
湯船に浸かって、暫くした頃
摩りガラスの向こうに人影が見えた。
「あーた泊まってくのー?」
と思ったらドアがちょっと開いて
そこから潤が顔を見せた。
「エッチ」
「いや今更何を(笑)」
「泊まってく」
「・・・・・ん。あーたのパジャマ置いとくからね」
それだけ云ってドアは閉められた。
いつもなら一緒に風呂に入ってくるぐらいなのに。
やっぱり何かがおかしい。
それ以前に、泊まると云った時に
軽く歪んだ顔。
どういう意味だよソレ。
不審に思いながらも、気にするのは止そうと云い聞かせて
風呂を出た。
キチンと俺用のパジャマが置いてあって、それに袖を通す。
リビングに出たら、潤がソファーでTVを見ていた。
「水貰うぞ」
「あーはいはい」
冷蔵庫からボトルを取り出し、そのまま口に運ぶ。
喉を冷たい水がスルリと流れて胃に届くのが判る。
あーあちい。
ボトルを片手に俺はまた潤の横に腰を下ろした。
今度はすぐ横に。
「・・・あーた熱いよ」
「そりゃ風呂上りだから」
「・・・・・俺も風呂入ろ」
そう云って風呂場に向かってしまった潤。
隣に居たのは精々10秒足らず。
避けられてる?
そんな予感が頭を過ぎる。
「・・・・考えないでおこ」
こういう事は深く考えるといい事はない。
嫌な予感がするけど、気付かないフリをして俺は寝室へ向かった。
相変わらず寝室だけは殺伐としていた。
ベットがドンと置かれていてサイドテーブルしかない。
服は全部クローゼットの中。
でもそんな何もない部屋が俺は意外と好きだった。
冷たいベットに身体を横たえて、布団に入る。
「冷た・・・」
でももうすぐ潤が出てきて、風呂上りの身体であっためてくれる。
もうちょっとの辛抱だ。
暫くベットで待っていると、リビングに足音が響いた。
あ、風呂から出てきたな。
暫くリビングを歩く足音が続いて
そのまま足音は聞こえなくなった。
あれ?
トイレでも行ってるのかと暫くそのままで
放って置いた。
でも5分経っても足音は聞こえない。
「潤ー!」
おかしいと思ってリビングに向かって声を掛けた。
「どうしたのー?」
するとすぐに返事は返ってきた。
「どうしたのって・・・何してんだよー」
「何ってコッチで寝てるんだけどー?」
「はぁっ!?」
コッチで寝てるって・・・どういうことだよ。
俺は無意識に温まりかけた枕を抱えてリビングへ向かう。
するとリビングの電気は全部落とされていて
暗い視界の中でぼんやりソファーに寝転ぶ人影が見えた。
「何でソコで寝るんだよ」
「何でって・・・あーたが向こうで寝るから」
「一緒に寝ればいいだろっ」
「・・・うーん・・」
「・・・・・風邪引くし・・そこじゃ」
「大丈夫だよ。暖房掛けてるし」
「いいからコッチ来いっ」
何でそこで寝るんだよ。
今になって。
今まで一緒に寝てたじゃないか。
なのにどうして。
俺は潤にそう云い放ち、ベットに戻った。
少ししてその後に潤が続く。
「コッチで寝ろよ」
「ん」
俺が寝る場所を開けると、潤はそこに横になった。
いつもなら俺側を向いてくれるのに
今日は背中が向けられた。
距離も、幾分遠かった。
その距離が何だか悔しくて
でも淋しくて
俺はそっと潤の背中に手を置いて
身体を寄せた。
途端に潤がチラリとこちらを見た。
そしてすぐまた向こうを向いてしまった。
「寒い・・・」
ポツリと寒さを口にする。
でも潤は何も云わなかった。
何で?
いつもなら
いつもなら
「潤・・・?俺なんかした?」
「へ?」
今度は反応した。
「何か・・避けてるだろ俺のこと」
「避けてないよ」
「じゃあ何で誘ってもウチ来ないんだよ。何で一緒に寝ないんだよ・・」
「それは・・・・」
「避けてるとしか思えない」
何か無性に辛くなって
目を閉じたら目頭が熱くなった。
あぁヤバイ。
何でこんな苦しいんだろ。
きゅうと潤のシャツを掴む。
それでもコッチを向いてはくれなかった。
「別に避けてるわけじゃないよ。ただ」
「・・・」
「もうあーたには優しく出来ない」
「ッ・・・・・それどういう」
「別れよう」
途端に目眩がして
もう堪えているのも限界で
頬に一本の筋が流れた。
■一言■
長編の一話目です。
何ていうかなー…あんまりまだ最初なんで詳しい内容とかは云えないんですが
嫉妬とか切ない気持ちとかそういう人間の葛藤みたいなのを
書いていけたらなぁと思ってます。
で、今回はお兄ちゃんサイドですが、2話目は潤君サイド。
1話ごとにサイドが変わるんで、お互いの心情とかもわかるかなぁなんて。
頑張りますッ!
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