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俺を殺すと云い放ったあの時の顔は
今でも忘れない。
満月の夜
貴方に触れたことも。
■■■THE TRUTH■■■
第2章:「契り」
あーたが俺に背を向けて
許されない。
と云い放ってからどれぐらい経ったろうか。
5分?10分?それとも1時間?
じぃっとその背中を見つめていても
あーたは振り返るどころか、喋る事すらしなかった。
何時までも見つめていても、返事は戻ってこない。
ようやく視線を天井に向けた時だった。
「俺はっ・・・・死神だよ」
「・・・何回も聞いたよ」
「それでも・・・それでもお前は俺が好きだって云うのかよ!」
「っ・・・キリト?」
突然身体を起こし、俺へと振り返る。
その目は、酷く困惑していて灰色にも見えた。
手は、震えていた。
「何で俺なんかっ・・・何でっ・・・」
「何でって・・・理由なんてないよ。俺は死神だろうとなんだろうとキリトが好きなだけから・・」
「でも俺は・・・お前を殺すんだ・・」
「・・・・・・」
「こうやってても、例え二人で好き同士になったって・・いつかは俺はお前を殺さなきゃいけないんだ・・・」
「・・・」
「無理だよ・・・許されない」
じゃあどうして
じゃあどうしてよ。
「お言葉だけどさ」
「じゃあどうして一年以上も一緒に暮らしてたのさ」
ぴくりと反応した瞳。
何か核心に触れられたかのような表情。
「嫌なら出て行けばよかった。何時でも俺の前から消えることは出来たでしょ?」
「何時でも俺を殺せばよかったじゃない」
どうして、殺さなかったのか。
俺には理解出来なかった。
******************************
俺を殺すために来たというキリト。
でも半年経っても一年経っても、あーたは一向に俺を殺そうとはしなかった。
それどころか、時が経てば経つほど、あーたはこの家に馴染んでいく。
まるで、ずっと前から居たかのように。
どうせ2月に死んでいたなら
殺してくれても構わないと思い出したのは半年を過ぎてから。
あーたになら
殺されても構わないと思った。
「どうして殺さなかったの?」
黙ったままだった。
「俺の納得のいく、返事聞かせてくれる?」
思考を読もうともしない。
それどころか、目を見ようともしなかった。
ベットのシーツへと落とされた視線は
ただ宙ぶらりんに小刻みに震えているだけだった。
その手も小刻みに震えている。
核心を着かれただけとは云い切れない程震えている。
何かに怯えるように。
その手に、そっと自分の手を合わせると
はっと顔を上げて、やっと俺を見てくれた。
「・・・・震えてる」
「・・・・・・っ」
「殺すチャンスは、幾らでもあったでしょ?」
「・・・」
「どうして殺さなかったの?」
「・・・・・・・殺せなかった・・・んだ」
「どして?」
「・・・・・・・・・・居心地が・・いいと思ったから・・」
「え?」
「この家が・・・お前の傍が・・・居心地よかったんだ・・・」
その刹那。
俺はキリトを抱きしめていた。
腕をぐいと引き寄せて、俺の上に乗っかる形で抱きしめた。
強く強く。
困惑していたあーたは、動けないで俺の胸に頬を寄せていた。
頭を撫でて、名前を呼んだら
「びっくりした・・・」
と、か細い声が聞こえてきた。
「居心地・・・いいでしょ?」
そういうのが精一杯。
それ以上の気の利いた言葉は出てこない。
「・・・苦し・・・」
「でも・・気持ちいい・・・・・・」
そう云って、キリトは俺の胸に顔を寄せた。
「好きで居て・・いいの?」
「・・・・ん」
「離さないよ?俺」
「構わないよ・・」
「殺せなくなるよ?」
「・・・・・どうにでもなるよ」
「じゃあ・・・」
「ずっと俺と居て」
再度抱きしめた身体から震えは無くなっていた。
******************************
「『ずっと俺と居て』…か」
「なぁにコータ。羨ましいのー?」
その声は俺の家の前のビル上からだった。
ビルの屋上に二つの人影。
その背中には、黒くて大きな赫々しい翼が生えていた。
満月を背負って黒い翼を広げている。
その目下で、ベットで抱き合う俺とキリトの姿が窓に映る。
二人はそれをただじぃっと見ていた。
「んなわけないだろ。人間に愛されたからって何が嬉しいんだよ」
「嬉しいみたいだよ?キリトは」
「とうとうヤキが回ったのかな?お兄ぃも」
「殺さなきゃいけない人間に愛されて・・・殺さなきゃいけない人間を愛した・・・」
「何時かは・・・自分の手でその愛する人の首を絞めなくちゃいけないのにね」
「とにかく・・・上に報告だな」
そして影は満月へと消えた。
******************************
か細い身体を抱きしめて、どれぐらい経ったかは判らなかったけど
冷たいキリトの身体が温かみを帯びてきた頃だった。
「潤・・・・?」
「・・・ん・・・?」
「俺は・・・・お前を殺さないよ・・」
「え・・」
「殺さない・・・・・」
「でも・・でもあーたは俺を殺すためにココにいるんでしょ・・?何時かは殺さなきゃいけないんじゃ・・」
「そう・・だけど・・・でも殺さない」
「・・・・キリト・・」
俺を殺さないと云ったあーた。
でも、そう云ったあーたの身体がまた震え始めた。
「・・・震えてるよ」
「・・・」
「俺を殺さなかったら・・・・どうなるの?」
「・・・・・それは許されない」
「・・・」
「リスト漏れした人間を殺すのが俺の仕事であり使命だからそれを無視するようなことがあれば・・・」
そう云ってまた沈黙がやってくる。
「あれば?」
「・・・・・・・・とにかく俺はお前を殺さないから」
「・・・あ・・・うん」
質問を掻き消された。
多分、云いたくないのだろう。
俺もそこは無理に問い詰めるのを辞めた。
ぎゅうと俺に擦り寄ってくるキリトの身体を抱きしめて
その夜は眠った。
満月は、何時の間にか分厚い黒雲に覆い隠されていた。
そしてこれから起こる事にも、俺は全く気付かないでいた。
月が雲に隠れた事に気付かなかったのと
同じように。
■一言■
死神ストーリー2話目です。
んと、今回はとりあえず潤君の思いをお兄ちゃんが受け入れたってとこです。
問題はこれからです。
これから他の死神も登場しますー!
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